紫陽花

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「僕のこと・・・弱い人間だと思った?」 多分卑屈な顔をしていただろう。 ああ、 これで彼も、 僕に愛想を尽かすかも・・・ 彼は、 僕をじっと見つめ、 重ねた手に力を込め、 「辛かったんだね。」 慈愛に満ちた顔を浮かべた。 「俺が役に立って嬉しい。これからもずっと俺が君を護るよ。」 「だから要は、堂々としていればいい。」 僕は彼の言葉に、 胸が熱くなり、 今にも涙が零れ落ちそうだった。 電車の中だったから、 なんとか我慢したけど・・・ ありがとう。 心の中で叫んだ。 彼が居れば、 僕は自分に自信が持てる。 初めて出来た親友、 親友と言ってもいいよね? 電車が目的の駅に着き、 僕らは、 隅田川の畔に着いた。 遊歩道をゆっくりと歩く。 彼が手を繋いでくる。 へ、変じゃないかな? 男同士手を繋いで歩くなんて・・・ 僕は頬に熱が集まるのを感じた。 「なに?その可愛い顔。」 彼が僕をからかう。 さっきの話なんて、 聞いてもいないっていう感じで・・・ 僕にはそれがありがたかった。 「だって・・・男同士で手を繋いで歩くなんて・・・周りから見たら変じゃないかって・・・」 「要は周りのこと気にしすぎ。誰も俺らのことなんて見てないって。」 確かに、 遊歩道には人がまばらで、 僕らに気付く者は居なかった。 僕らは遊歩道にあるベンチに腰掛けた。 「引っ越し、いつにする?」 彼が嬉しそうに聞いてくる。 「本当にいいの?僕なんて・・・」 僕はまだ煮え切らない。 「要、自分のこと過小評価し過ぎ。要は十分綺麗だし魅力的だよ。」 うそだ・・・そんなの・・・ 綺麗なのは・・・君だ・・・ 「証明・・・してあげようか?・・・」 彼が意味ありげに僕を見つめる。 次の瞬間、 彼の唇が僕の唇を塞いだ。 舌が絡められる。 体の奥がじんと疼く。 僕の舌を絡め取りながら、 彼は何度も僕に口づけた。 どれくらい時間が経ったのか、 分からないくらい、 僕はそのキスに酔いしれた。 ああ・・・ 気持ちがいい・・・ ずっと・・・ こうしていて・・・ 彼からは、 紫陽花の、 いい香りがしていた。
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