紫陽花

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そうしたら、 彼が一緒に電車を降りた。 僕の傍に来て、 「本当に大丈夫?」 「放って置いて欲しい。」 僕はただそれだけを必死に言った。 「方って置けませんよ。」 僕の肩に手を置いてきた。 ビクッ・・・ 反射的に驚く僕。 その反応に咄嗟に手を引く彼。 彼は僕の気持ちも考えず、 僕の肩を抱き、 ホームのベンチまで僕を連れて行き座らせ、 ずっと僕の肩を抱いたまま、 僕の苦しそうな顔を見ていた。 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」 肩で息をする僕を心配そうに見つめ・・・ 「大丈夫ですか?」 またあの質問・・・ 大丈夫そうに見えるの? 「放って置いて欲しいって言ったのに・・・」 やっとの思いでそれだけを口にする。 「僕、紫陽花大好きなんです。」 彼が唐突に言った。 「紫陽花って、梅雨の時期に咲く今だけの花だから・・・」 その言葉は僕の心をついた。 僕は彼の顔をちゃんと見る。 整った容貌、 涼やかな、 そういう形容詞がぴったりくるような、 そんな男だった。 なんで僕なんかに触れたの? 「僕も・・・」 瀕死の僕は声の限り振り絞って、 「僕も紫陽花は好きです。」 顔に熱が集まるのを感じた。
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