82人が本棚に入れています
本棚に追加
初めて僕が僕の世界の外の人に、話した言葉・・・
紫陽花のこと・・・
この時期にしか咲かない花のこと・・・
こんなに綺麗な彼が、
僕と同じことなんて考えるの?
それがとても不思議で・・・
僕に話しかけてくれたことが不思議で・・・
呆気にとられて彼を見上げた。
優しい瞳、
澄んだとても澄んだ瞳で、
僕を見つめていた。
「前から気になっていたんです、君のこと。」
思いも寄らない言葉が降ってきた。
こんなちっぽけで惨めで哀れな僕のこと?
気になっていたって?
僕には信じられなかった。
首を横に振る。
「気にしなくていいんです。」
「放って置いてください。」
僕にはこれだけ言うのが精一杯だった。
「具合悪そうで・・・電車、苦手なんでしょ?」
優しい口調で彼が言う。
そうだ、そうだよ・・・電車は苦手だ。
電車だけじゃなく、他人が居る空間が苦手なんだ。
だから放って置いて欲しいんだ。
そうも言えず黙っていると・・・
「いつも同じ駅から乗ってくるんです。」
え?・・・
「そして、いつも同じ駅で降りるんです。」
な・・・なんでそんなことまで。
「僕・・・そんなに哀れに見えましたか?」
卑屈な僕はそんなことしか言えない、
下を向いたまま彼の顔もまともに見れない。
「いいえ・・・苦しそうだな、ってただ思ったので・・・」
あなたは何者ですか?
空から舞い降りた天使?
それとも僕に哀れみをくれるただの他人?
僕は黙った。
下を向いたまま、
飴を舐め続けた。
ちょっと落ち着いて来た。
飴は僕の精神安定剤のひとつだ。
「ちょっと落ち着いて来たようですね、よかった。」
彼が眩しい笑顔でそう言った。
眩しい・・・彼を見上げるととても眩しかった。
雨なのに・・・
暗い空なのに・・・
彼はとても眩しかった。
僕はベンチに座り背を預けたまま、
彼の眩しい笑顔を見つめた。
きっとアホっぽい顔をしていただろう。
こんな僕に声を掛けてくれた人。
この時から彼は、
僕にとって二人目の、
話し相手になった。
最初のコメントを投稿しよう!