紫陽花

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初めて僕が僕の世界の外の人に、話した言葉・・・ 紫陽花のこと・・・ この時期にしか咲かない花のこと・・・ こんなに綺麗な彼が、 僕と同じことなんて考えるの? それがとても不思議で・・・ 僕に話しかけてくれたことが不思議で・・・ 呆気にとられて彼を見上げた。 優しい瞳、 澄んだとても澄んだ瞳で、 僕を見つめていた。 「前から気になっていたんです、君のこと。」 思いも寄らない言葉が降ってきた。 こんなちっぽけで惨めで哀れな僕のこと? 気になっていたって? 僕には信じられなかった。 首を横に振る。 「気にしなくていいんです。」 「放って置いてください。」 僕にはこれだけ言うのが精一杯だった。 「具合悪そうで・・・電車、苦手なんでしょ?」 優しい口調で彼が言う。 そうだ、そうだよ・・・電車は苦手だ。 電車だけじゃなく、他人が居る空間が苦手なんだ。 だから放って置いて欲しいんだ。 そうも言えず黙っていると・・・ 「いつも同じ駅から乗ってくるんです。」 え?・・・ 「そして、いつも同じ駅で降りるんです。」 な・・・なんでそんなことまで。 「僕・・・そんなに哀れに見えましたか?」 卑屈な僕はそんなことしか言えない、 下を向いたまま彼の顔もまともに見れない。 「いいえ・・・苦しそうだな、ってただ思ったので・・・」 あなたは何者ですか? 空から舞い降りた天使? それとも僕に哀れみをくれるただの他人? 僕は黙った。 下を向いたまま、 飴を舐め続けた。 ちょっと落ち着いて来た。 飴は僕の精神安定剤のひとつだ。 「ちょっと落ち着いて来たようですね、よかった。」 彼が眩しい笑顔でそう言った。 眩しい・・・彼を見上げるととても眩しかった。 雨なのに・・・ 暗い空なのに・・・ 彼はとても眩しかった。 僕はベンチに座り背を預けたまま、 彼の眩しい笑顔を見つめた。 きっとアホっぽい顔をしていただろう。 こんな僕に声を掛けてくれた人。 この時から彼は、 僕にとって二人目の、 話し相手になった。
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