氷点下の夏

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 「こちらは村役場です」  女性の声。  壁にかかった有線の機器からです。   「村役場の白鳥です。緊急連絡です。  突然、村に大雪が降り、吹雪が吹き荒れています。  現在、関係各方面に連絡をし、対応を検討中です。  雨戸を閉めてご自宅で待機し、一歩も外には出られないように願います。  外出中のみなさんは、至急、ご自宅にお帰りください」    アナウンスの声は震え、最後は泣き声に変わっていました。  「町への道路も雪が降り積もっています。吹雪も強く、車での脱出は絶対に無理です。絶対に自宅から外に出られないように願います。  村の気象観測所からです。  氷点下三十五度を記録しました・・・」  瀬戸君ははじかれたように立ち上がりました。  仏壇のそばのさっちゃんの写真に目を向けました。  さっちゃんは笑顔を瀬戸君に向けています。  「さっちゃんが怒ってるんだ」  瀬戸君は叫びました。  「森に行きます」  「なに、バカなこと言ってるの」  返事はしませんでした。  瀬戸君のいなくなった家。  さっちゃんが、さっきのままニコニコ笑っていました。
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