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「氷室さんの家の人?」
「いいえ。僕、瀬戸祐樹っていいます。東京の高校一年生です。
氷室彩月さんって知ってますか?お墓参りに来たんです」
「ああ。まー君の娘か。
彩月ちゃんが亡くなってからね。
まー君、奥さんとこっちへ引っ越してきて、今は少し離れたとこの会社に勤めてる。
遠いから週末だけ帰ってきてる」
運転手は、ニコニコ笑って、瀬戸君の方を見ました。
「彩月ちゃんの友だちなの?」
瀬戸君はうなずきました。
「とっても大切な人だったんです」
「氷室さんの墓は、さいはての森の中。
一本道を通れば、じき見えてくる。
彩月ちゃんもきっと喜ぶんじゃないかな」
瀬戸君は微笑みました。
運転手さんがよく見れば、とっても寂しそうな笑いだと気がついたでしょう。
でもその前に、発車時間が来ていました。
「それじゃあ、発車します。だいたい四十分くらいです。
村は谷底だから、終点から歩いて細い坂道を降りてください。
車、持ってる人も、終点のところの空地に駐車していきます。
坂道は一本道だし、迷うことはありません。
ただずいぶん暑いから、それだけ気をつけて。
今日も四十度超えたから」
親切な運転手さんの案内が終わり、村に向かうバスが発車したのです。
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