氷点下の目

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氷点下の目

 森の奥。  吹雪が悲鳴をあげていました。  森を訪れた瀬戸君を、容赦なく襲ってきたのです。  吹雪の中! なんでしょうか?  真っ白で帯のようなものが飛んで来ました。  蛇のように生きていて・・・ 一直線に瀬戸君めがけ・・・  瀬戸君の体はぐるぐる巻きにされました。  瞬間、瀬戸君の体は、カチカチに凍って動かなくなったのです。  冷たいだけではありません。  痛いのです!  思いがふっ飛ぶくらい・・・  「さっちゃん。やっぱり怒ってるんだよね」  瀬戸君は叫びました。  雪の中にはだれもいません。  だけど瀬戸君は・・・  ハッキリだれかの視線を感じたのです。  「さっちゃん。  僕を許してくれないんだよね」  全身の痛み。冷たさで感覚のない身体。  「いいよ。僕のこと、怒ってよ。  昔みたいに・・・」  吹雪の中。  雪に隠れて・・・  だれかが、瀬戸君のことを、じっと正面から見つめているのです。  「南ちゃんに励ましてもらって・・・  少しは強くなったと思ってた。  だけどやっぱり僕、泣き虫で弱虫で、さっちゃんがいなかったらなにもできない人間なんだ。  もう無理するなんてイヤだ!  お願いだからさっちゃんのとこ、連れてって」  答えはありません。  目の前では雪の渦が回っています。  そしてその渦の中・・・  瀬戸君は、見えないふたつの目を感じたのです。  「ずっとずっと一緒にいてよ・・・  僕、死んだっていいんだ」  もう我慢できませんでした。  涙は流れて、すぐ氷となり、瀬戸君の顔に張りつきました。  なにも見えません。  でも感じます。    だれかの視線が、だんだん近づいているのです。  体が完全に動かなくなりました。 心臓の鼓動が聞こえます。  だんだん小さくなっていきます・・・  「さっちゃん!連れてって」  だれかの視線は・・・  瀬戸君の凍りついた顔のすぐ前にあります。  雪の向こうに・・・  きっとふたつの目があるはずなのです。  なつかしい人の大きなパッチリした目が・・・  もう一度、見ることがかなわないまま・・・  瀬戸君の意識は・・・  そのまま完全に凍りついてしまったのです。       
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