10

1/15

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ

10

 奈央とも涼介とも距離をとったまま、文化祭本番の朝を迎えた。 「今日もあんまり寝れなかった……」  目覚まし時計を止めながら、ふうと息をつく。  奈央の涼介への告白、涼介が奈央をなぐさめているところを見てから、実は全然眠れない。  文化祭の準備中、何度も涼介に「なんか無理してない?」と様子がおかしいことを聞かれたけど、あいまいに笑ってごまかし続けている。    せっかく楽しい文化祭のはずなのに。気持ちが晴れないまま、この日になってしまった。  部屋の窓から朝日が差し込んでいる。そっとカーテンを開けると、隣の涼介の部屋はまだ暗かった。  みんなのおかげで脱出ゲームの準備は万全。その点は心配いらなかった。 「今日は打合せ通り、みんなは交代で教室に残って案内役やチケットもぎりをすること」 クラスのグループラインに、涼介の指示が飛んでくる。 あ、涼介もう起きているんだ。 「委員の俺と千里、そしてリーダーとサブリーダーの三宅と島袋は一日教室にいるつもりだから。何かあったら聞いて」 続く涼介のメッセージを見て、この四人で教室にいるのも気まずいなとこっそり思う。特に、涼介と奈央が二人でいるのは見たくない。 でも、奈央には涼介と一緒に回ってきなよ、って、勧めてあげよう。 好きどうしの二人で、文化祭を周るのはきっと楽しいだろうから。 奈央に、応援してるからってちゃんと言おう。二人の仲を、ちゃんと祝ってあげないと。喜んであげないと。 それが私が出した答えだった。 それなのに、涼介と奈央が並んで、楽しそうに文化祭を周っているところを想像して、今までにないくらいに胸が痛んだ。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加