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 文化祭が開始されてしばらくすると、うちのクラスの教室は人でいっぱいになった。  学校内で、注目されている出し物のひとつらしい。順番待ちまで出るくらいだった。 「うわぁ、盛況だね」  嬉しそうに爽にいちゃんが見回りに来た。 「涼介が企画したんだよ。涼介がリーダーなの」  私が報告すると、涼介は「よせって」と教室の奥に入っていってしまった。 「もー、ちょっと涼介?」  もう一度呼ぼうとすると、爽にいちゃんが止めた。 「兄に見られるのが恥ずかしいんだよ」  爽にいちゃんは、にやにやと嬉しそうにそう言う。 「城屋くんも可愛いところがあるんだ。兄弟で仲いいんですね」  奈央が教室から顔を出して、爽にいちゃんに話しかけた。 「あぁ、島袋。あの、もう大丈夫なの?」 「はい、さっきはすみません。……先輩、少し一緒に、文化祭回りませんか」  普通の調子で奈央は誘っていたけど、手が少し震えていた。  がんばれ、奈央!  爽にいちゃんも、答えてあげて。私は祈るような気持ちで二人を見守った。 「もちろん、俺でよければ一緒に回ろう」  爽にいちゃんは、嬉しそうにそう言った。あれ、これは結構いい感じなのかな。  私は「いってらっしゃい」と二人を見送る。二人は、楽しそうに教室を見ながら歩いていった。 大人っぽい奈央は、何でもできる爽にいちゃんにとってもお似合いだと思う。 私も、あんなカップルになれるのかな? 「千里? ちょっとこの説明用のプリントが足りなくなりそう。用意してくれる」 「うんっ!」  涼介に呼ばれてはっとした。  違う。私は、私と涼介らしいカップルになればいいんだ。涼介と爽にいちゃんは違う。  年上の爽にいちゃんみたいに、大きく包んでくれることはないけど、対等で、同じ目線で話して、ケンカしながら笑い合える関係なんだ。そういう相手で、これからもいたい。
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