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ふと疑問に思う。あのとき、本当に涼介は居眠りしていたんだろうか。涼介は結構真面目なんだ。 まだ始まったばかりの学校で、居眠りするとはあんまり思えない。 涼介の性格上、椅子から転げ落ちるなんて、ドジなこともやらかさないはず。どうして、あのとき? 考え込んでいると、爽にいちゃんのスマホが鳴った。爽にいちゃんがリビングを出て行くその背中を見ていたら、思いつきそうだったことを忘れてしまった。 「千里ちゃん、英語教えてあげようか。おもしろい教材があるんだよ」  食べ終わったころ、爽にいちゃんがそう声をかけてくれた。 「え、本当? ありがとう!」  こういうときのために、私は英語が苦手なのを隠してがんばっている。爽にいちゃんは英語が好きだから、私も高校入学前から英語が好きなふりをして、こうして色々教えてもらう。二人きりになる口実だった。 本当は英語が出来ないのを知っている涼介が、ふんと鼻で笑ったのを無視して、私たちは部屋に向かった。 「そういえば、この前うちに来てた、千里ちゃんの友達。島袋さんって大人っぽいねぇ」  爽にいちゃんの言葉に、少し傷つく。やっぱり、爽にいちゃんも奈央のことは大人っぽいってそう思うんだ。いつも見てる私は、子どもっぽく見えてるのかな。 「そうだよね、大人っぽいよね」  無理に、明るく返した。 「私なんて、こんなに子どもっぽいから隣にいるのも恥ずかしくって!」  あははと笑うと、爽にいちゃんは目を細めて「そんなことないよ」と頭をぽんとなでてくれた。 もう顔が見れなくて、うつむいてしまう。爽にいちゃん、優しい。
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