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ある日、いつものように爽にいちゃんを迎えに家の前に出ると、めずらしく涼介がいなかった。チャンスだと思った。
いつもみたいに涼介とけんかして子どもっぽい自分じゃなくて、ちゃんと大人の自分を見せて、爽にいちゃんに振り向いてほしい。自分の気持ちを、ちゃんと伝えるのは今しかない。
爽にいちゃんが、少し気崩した制服でこちらに向かってくるのが見えて、私は手をふった。
「千里ちゃん、今日も出迎えありがとう」
ほほ笑んだ爽にいちゃんの目をじっと見つめる。
「どうしたの、真剣な顔して」
不思議そうな爽にいちゃんの前で、私は、すうと息を吸うと、大きな声で言った。
「私のこと彼女にしてくださいっ」
一世一代の告白だった。
まだ私は、ピンクのランドセルを背負った小学生。だけど、本気。物心ついたときからずっと好きだった。
背の高い、爽にいちゃんの手をぎゅっと握る。
爽にいちゃんは、膝を曲げて目線を会わせてくれると、優しく目を細めた。
そう、その笑顔が好きなの。私は真剣に爽にいちゃんを見つめた。
「嬉しいなぁ。だけど千里ちゃん、まだ小学生でしょ。大人になったらね」
爽にいちゃんは優しく言った。
「えぇ! 大人になったらって、いつ?」
自分ではもういっちょ前に、大人のつもりだった。だって、もう学校では一年生のお世話だってできるんだから。ふくれた私の頬を、つんとつついて、爽にいちゃんは笑った。
「うーん、じゃあね、高校生くらいになったらかな」
爽にいちゃんがしゃがんでくれたから、目の前には、爽にいちゃんのきれいな顔がよく見えた。
「わかった……」
その顔を目に焼き付ける。
早く、高校生になろう。私が高校一年生になるとき、爽にいちゃんは高校三年生だ。早く、ランドセルは卒業して、近所のお姉さんが来ていた中学のセーラー服もすっとばして、爽にいちゃんと同じ高校生になろう、きっと同じ高校に行こう。
ちょっと悲しかったけど、涙は、ぎゅっとこらえたのを覚えている。
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