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玄関を出ると、あの日のように、春のあたたかい風が吹いていた。隣の家の前で、私は深呼吸する。 ――やっと追いついたよ。  今日は待ちに待った、高校の入学式。高校生になったら、好きな人に気持ちを伝えようって決めていた。だから今日は、特別な日。  ガチャリ。隣の家の玄関が開き、私の好きな人が出て来た。さらさらの茶色っぽい髪が、春風に揺れている。 「おはよう」  制服のネクタイを、見せつけるように胸を張って、声をかける。 「おー、千里ちゃんおはよ。制服、似合ってるよ」  爽にいちゃんは、優しそうな目を細めて、にこりと笑った。この笑顔が、大好きなんだよなぁ。私も思わず顔がほころぶ。爽にいちゃんは、すらっとした体型で、高校の制服がとてもよく似合っている。 ――爽にいちゃん、私もやっと、同じ制服を着れるくらい大人になったんだよ。  言葉にせずに、爽にいちゃんの目をじっと見つめる。テレパシーで伝わらないかな。なんて。 そのとき、一番嫌いな声が響いた。
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