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スプーンを握って、力任せにかき氷を混ぜる。
ザクザク、ザクザク。
どうして、どうして。
「自分と似てる気がしたから。燃え尽きて捨てたくせに、いざとなったらそれしか残ってなくて」
日に焼けた腕は、席を案内してくれた色白のおばさんとは対照的だった。
「埋もれた自分に気づいてほしくて、でもかっこ悪いから気づいて欲しくなくて」
本名で応募したオーディションはことごとく落ちた。引っかかったのは、来るもの拒まずな小劇団だけ。それでも、中心に立つには3年かかった。
「違う?」
並んだ野球ボールの最後尾には、2年前の日付と聞いたこともないチームの名前がマジックで記されている。
「でも母さんがファンやったのはほんまやし、それに」
ガツンと音を立てて、ひとつのラムネが割れた。
「失礼じゃない?」
「すんません」
クツクツと笑うそれは、してやったりなのだろうか。じゃあ、のってやろうじゃない。
まずは席を立って、店の外に出たままの背中に一発お見舞いしてやろう。話はそれからでもいい。
美人じゃなくても、目元に面影があったから。
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