1人が本棚に入れています
本棚に追加
「今後のこと、座長と話し合って」
団員10人を数えるのがやっとの小劇団。他の劇団と合同で自主公演をするのがやっとで、切り詰める生活を理由に2~3年でメンバーが入れ替わる。大学のサークルが起源だと聞いたけれど、もう誰もオリジナルメンバーを知らない。
「凜ちゃんにはちゃんと話せって言われて」
最古参は、社長息子の座長と今回の受賞で首の皮一枚つながった脚本家。在歴8年。その1年下に、ヒロインの私。
「今回の公演が、うちの劇団にとって最終公演で」
じゃあ、他のメンバーには座長から話をつけるのね。大事なことは伝言なんて、狡い。
「あんなグダグダが最後なんてね、笑える」
せっかく脚本家が賞をとったのだから、記念公演がしたい。誰かが言い出したのを、誰かの地元の公民館を借りることで話が落ち着いた。
「それで、俺は誘われた劇団で脚本を書く」
脚本家には才能があった。10人もの登場人物を器用に動かして90分の劇を作る。シリアス、ミステリー、ラブストーリー。若手登竜門ともいえる賞の大将受賞で、ただ演者がひどくてお客が入らなかったんだと現実を見た。
「座長は会社を継ぐって」
普段はどんな生活を送っているのかわからない。でも、居場所があるのは羨ましいことだ。
「凜ちゃんなんだけど...」
差し出されたのは、スマホの画面。検索時にお世話になる、百科事典だ。
「これがほんとなら、凜ちゃんも俺と来ていいって」
滝本凜(子役時代:滝本里香)
最初のコメントを投稿しよう!