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久々に雨がやんだので、実嗣は思い出したように学校へ行くことにした。
実嗣の父親は実は一年ほど前から仕事の関係で海外に行っていたりする。母は実嗣を産んですぐに死んでしまっていて居ない。
そんなわけで、もともと小さいころから鍵っ子だった実嗣。
今更親について海外に行こうなんて気にはなれなかったので、一人日本に残ることにした。
父がそれを許したのは、隣の家との関係にある。
実嗣、子供のころから生家であるここにいた時間よりも、隣の家で過ごした時間のほうが長いのだ。
隣の家は行潦外科医院という名の町医者をやっていて、一応専門は外科ということになっている。
しかし小さな町の何とやらで、内科、小児科、精神科……求められれば何でもこなす。そんな場所になっていた。
実際、実嗣も小さいころには病気や怪我をするたびによく世話になっていた。
実嗣の家が父子家庭で、父親の帰りが遅いことを知ったドクターの勧めで、父が家に帰ってくるまでの間、実嗣は行潦家で過ごすようになった。
行潦家には、実嗣と十ばかり年の離れた男の子と、更にもう五つ年上の女の子がいて、兄弟のように接してもらった。
現在、姉の若菜は家を出てとある高校で保険医をやっている。結局家のほうは弟の響が継いだ形だ。
先代は、響に跡目を譲ってからは、看護婦として支えてくれていた奥さんとともに、悠々自適の別荘住まいをしている。
「久しぶりだな、実嗣。お前、ちゃんと食事を摂ってるのか? 菓子ばかりじゃ栄養偏るぞ?」
登校前に、先日借りた洋菓子のレシピ本を返そうと行潦家に寄ったら、響に釘を刺されてしまった。
「いくらなんでも菓子ばっかは食ってないって。響兄心配しすぎ! それよりこの本、若菜姉にバレる前に棚に戻しといてよ」
実嗣が、行潦家のみで見せる、子供っぽい顔。言葉遣いも若干やわらかめだ。
「ならいいんだが。ちなみに姉さんならもう気づいてるぞ?」
「え!? 嘘……?」
「嘘だ」
「うわっ! 意地悪ぃ!」
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