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「マスター、俺、退屈なんっすけど……」
そんなわけで、今日こそは何とか実嗣を外に連れ出したい叶利である。
数百年くらい前は山にある洞穴に住んでいた叶利だ。もともと濡れるのはそれほど苦手じゃない。
「……俺はそうでもねえけど?」
外出しましょうぜ、という気持ちを込めて投げかけたセリフに、カラー写真満載の本から目を上げた実嗣が、つれない声音でそう返す。
学校をサボっていることからも想像がつくかも知れないが、実嗣はここいら界隈では不良青年で通っている。
別に暴力沙汰を起こしたとか、そういうことはないのだが、三白眼の険しい目つきと、人を寄せ付けない態度のせいでイメージだけが先行しているのだ。
そんな実嗣だったが、外見に似合わずかなりの甘党だったりする。
最初のうちは店で買ってきた既製品で満足していたのだが、最近では手作りに凝っている。
叶利としては「旨いもんが食えりゃなんだっていいや」なのだが、そんなことを言おうものなら、「味の分からん奴にゃぁやれん」と取り上げられてしまうので黙っている。
「マスターは食いもんのこと考えてりゃ時間つぶれるんでしょうが、俺、することないんっすよ」
「別に俺に付き合って部屋にこもってなくってもいいんだぜ?」
だから一緒に外出しやしょう!と誘ったつもりだったのだが、実嗣には叶利の気持ちが伝わらない。
レシピ本のページをめくりながら気のない言葉が返ってくるだけだった。
「俺一人じゃその……何つぅんでしたっけ? 逆ナン?……とかそういうのに対処できないんっすよぉ~」
別に対処できないわけではないのだが、声を掛けられること自体が面倒くさい。
「じゃ、狼の格好して行けば? どうせ普通の奴らにゃ犬にしか見えねぇはずだし」
確かに叶利を見て狼だ!と分かる人間のほうが少ないだろう。しかし――。
「その格好じゃどこにも寄れねぇんっすけど……」
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