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 大きな犬――もとい狼――が一匹で歩くには、現代の街は世知辛い。下手したら保健所に連れて行かれるかも。 「……だからお願いしやす!」  実嗣(さねつぐ)の手にした本を引っ張ってのけると、片手を顔の前に出して拝み倒しのポーズをとる。  普通、こんなことをすれば逆効果になるが、実嗣には案外優しいところがある。 「……ったく」  しゃあねぇなぁ~。  頼まれると嫌と言えない性格を熟知しての相棒の作戦に、まんまと引っかかった。  面倒くさそうに頭をガシガシやってから、おもむろに立ち上がると 「川西(かわにし)のレンタルビデオショップでいいな?」  好きな映画、何本か選ばせてやるからそれを観ておとなしく過ごせ。  そう言うことらしい。 「へ~い♪」  とりあえず、付き合ってくれる気になったらしい実嗣に、にっこり笑う叶利(かなき)。  口の端に覗く鋭い牙も、こういう表情のときは八重歯のように見えた――。
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