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家を出ると、幸いなことに雨は小雨になっていた。
「このぐらいの雨なら濡れて行きましょうや」と言って手ぶらで出る叶利に、実嗣は「冗談だろ」といって傘を手にした。
結局雨は歩いているうちにやんでしまったので、内心にんまりした叶利である。
口数の少ない実嗣に並んで歩きながら、久々に外のにおいを満喫する。
胸一杯に吸い込んだ空気は、先ほどまでの雨で冷やされていて心地よい。
雨が降ると、排気ガスやら何やら汚いものが洗い流されるのだろう。晴天続きの埃っぽい空気より、雨上がりのあとの空気のほうが、叶利は好きだった。
実嗣が贔屓にしているレンタルビデオショップの名は「オーディオビデオ倶楽部」といった。
個人経営の、間口の狭い小さな店舗である。チェーン店などのような大型店舗と違い、滅多に他の客と出会わないのが実嗣のツボにはまったらしい。
このショップ、その名のとおりCDとDVDと今では珍しいビデオテープをレンタルすることが出来る。
実嗣の家にも、DVDを見られる媒体としてパソコンがあるが、叶利には操作方法がよく分からない。
だからビデオを借りて帰ることにした。
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