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 ここ数日間、(しぼ)れば水が出るのではないかというほどじめじめした天気が続いている。  見上げる空は相も変わらず暗い鼠色。目を凝らしてみるまでもなく、雨が地面を叩く音も聞こえている。  いわゆる梅雨(つゆ)長雨(ながあめ)というやつだ。  基本的に体を動かせる屋外のほうが好きな実嗣(さねつぐ)だが、こう天気が悪いとさすがに家から出る気がしない。  雨に負けて、もともとサボりがちの高校からも足が遠のいてしまっている。かれこれ一週間、家から一歩も出ていない。  ご丁寧にそんな実嗣に付き合って一日中家で過ごしている相棒――叶利(カナキ)――には、こんな単調な日々、そろそろ限界のようだ。  この叶利、実は実嗣に仕える妖怪(あやかし)である。  今現在学生をやっている実嗣には余り縁のない能力なのだが、叶利の(げん)を信じるならば彼には並外れた霊力が備わっているらしい。  叶利は、実嗣のそんなパワーに惚れ込んで自ら進んで使役(しえき)されている節がある。 「マスター。面白い番組なくなっちまいやした」  何故かNHKの教育番組がお気に入りの叶利だったが、午前11時以降の番組は余り好きではないと見える。  九時から始まる人形劇や道徳番組はおとなしく見ているくせに、いつも昼前になるとそんな風にぼやいては実嗣を悩ませる。
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