12.咲良の生家

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 大学進学を機に咲良(さくら)は両親の元を離れて今のアパート住まいになったのだけれど、築年数が浅い割にやけにミシミシと音の鳴る家だなぁと思っていたのを思い出す。  実家の家鳴りと関連付けて考えていなかったから今まで思いもしなかったけれど、咲良が大学の長期休暇で実家に帰った時、母が『そういえば最近あまり音がしなくなったのよ?』と喜んでいたなぁ……と気が付いた。 「こいつらは元々この家が大好きだったんっす。けど……住む人がいなくなっちまいやしたから……咲良ちゃんについて咲良ちゃんたちの家へ移動したんだって言ってやす」 「ご実家にはそんなに思い入れがなかったみたいで……咲良ちゃんが大学へ行くのに家を出ていくって知って、咲良ちゃんに付いてアパートへ引っ越したそうだ」  咲良にはピシピシパシパシミシミシとしか聞こえない音だけれど、実嗣(さねつぐ)叶利(かなき)にはちゃんと〝言葉〟として伝わってくるらしい。  そのことを、咲良はちょっぴり羨ましいな、と思ってしまった。
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