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「薔薇の棘さ」
「だからどうして?」
薫は溜め息交じりに低く囁く。
「俺見たんだ――明け方窓から——おまえ庭で薔薇の花を貪り食ってた」
「僕が花を?」
悪い冗談。
だけど無論、薫は冗談なんか言う男じゃない。
説明は面倒だと言うように薫は本のページを操った。
「ここ、読みな」
それだけ言うと本を突きつけ
そそくさと巻き毛は書庫から出て行った。
僕は目を皿のようにして薫が開いて行ったページの文字を追った。
「睡眠時摂食症候群……無意識に食べ始める……症例によっては……食べ物でないものを食しても記憶にない……」
原因としては精神的ストレスが上げられる。
「精神的ストレス……」
薔薇の花を貪り食う巨大な毛虫は僕だ。
でもどうして?
2人分の愛を得て葛藤を捨てたはずなのに。
僕はまだ満たされていないのか——。
だけどこんなの事件の序の口に過ぎなかった。
教えておこう。
僕はまたすぐ死にかけるんだ。
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