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10分後の未来――。
九条さんは無言のまま車を走らせている。
僕は助手席からその横顔を盗み見てる。
先刻までの紳士の顔はどこへやら。
九条敬はどこで獲物を食らおうか考えている雄ライオンのような目で、ハンドルを握りアクセルを踏み込む。
薄暗い駐車場の一角。
僕は彼のポルシェの傍らに立ち
想像も逞しくほくそ笑む。
「お待たせ」
そこへ——靴音を響かせやってきた人物を見て驚いた。
「貴恵お姉様……!」
どうりで。
ハイヒールの細い踵——良く鳴るはずだ。
「どうしてお姉様が?」
「妻だから夫に会いに来たのよ。そしたらあんたと密談中だった」
間抜けなものだと思う。
僕も九条さんも——そして貴恵も。
「会いたくなかったって顔してるけど今日の私優しいの。だから教えておいてあげるわ」
クラッチバックから取り出したのは細い巻き煙草。
優雅に煙をくゆらせると貴恵は芝居がかった口調で言った。
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