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九条さんはそのまま無言で僕の手を引いた。
パーティー会場から外へ出ようという合図だ。
僕たちは人波をかき分けるようにして
空いているバルコニーの方へと向かう。
途中ウエイターの盆からマティーニのグラスを取るのも忘れなかった。
「外で飲むの好き」
星が瞬く夜だ。
僕が夜空にグラスを掲げると九条さんもグラスを並べ形ばかり乾杯した。
九条さんは躊躇いがちに口を開いた。
「君に愛が足りないと言われたあの日から――とにかく来る日も来る日も考えたんだ。だけど情けないことにこれと言った理由が思いあたらない」
夜風が頬を撫でる。
当然だ——と僕は思う。
彼の愛はもともと完璧で足りない物なんてないんだから。
それでもとりあえず強い酒を一口含むと
黙って話の続きに耳を傾けた。
「その上、君に完璧な愛の形を見せると大見栄きって家を出てしまった。だから余計に——君に連絡し辛くてね」
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