episode255 愛を貪り食うもの

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「なるほど」 訳知り顔で頷き僕はもう一度呟いた。 「なるほど――それで連絡してこなかったんだ?」 チクリと良心が痛んだがそれも一瞬だった。 次に僕がやるべきことはもっと彼を夢中にさせて もっと僕を愛させてやることだと今はもう分かっていたから。 「そんなことだと征司お兄様の思う壺だ」 「何?」 「あなたが家を出たから征司お兄様すごく喜んでるの」 だから——迷いはなかった。 「あの手この手で僕を取り戻そうと必死にアプローチしてくる」 九条さんのグラスを握る指先に力がこもる。 と同時に——王子様、マティーニを一息に煽った。 「だけど不思議なんだ」 「何が?」 「お兄様、僕を誘惑はしても——肝心なところで逃げる」 「どうして?」 僕は女の子みたいに揃えた指先で そっと九条さんの手を握り答える。 「僕があなたの方を愛してるって知ってるからさ」 安堵と驚きの入り混じった表情で九条さんは僕を見つめる。 「プライドの塊みたいな人だもの――面と向かって拒絶されるのが怖いんでしょうね」 畳みかけるようにそう告げると堪らなくなったんだ。 九条さんは僕の肩を引き寄せすっぽりとその胸に抱きしめた。
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