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「なるほど」
訳知り顔で頷き僕はもう一度呟いた。
「なるほど――それで連絡してこなかったんだ?」
チクリと良心が痛んだがそれも一瞬だった。
次に僕がやるべきことはもっと彼を夢中にさせて
もっと僕を愛させてやることだと今はもう分かっていたから。
「そんなことだと征司お兄様の思う壺だ」
「何?」
「あなたが家を出たから征司お兄様すごく喜んでるの」
だから——迷いはなかった。
「あの手この手で僕を取り戻そうと必死にアプローチしてくる」
九条さんのグラスを握る指先に力がこもる。
と同時に——王子様、マティーニを一息に煽った。
「だけど不思議なんだ」
「何が?」
「お兄様、僕を誘惑はしても——肝心なところで逃げる」
「どうして?」
僕は女の子みたいに揃えた指先で
そっと九条さんの手を握り答える。
「僕があなたの方を愛してるって知ってるからさ」
安堵と驚きの入り混じった表情で九条さんは僕を見つめる。
「プライドの塊みたいな人だもの――面と向かって拒絶されるのが怖いんでしょうね」
畳みかけるようにそう告げると堪らなくなったんだ。
九条さんは僕の肩を引き寄せすっぽりとその胸に抱きしめた。
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