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「マティーニがこぼれちゃう……」
「いいよ」
彼が甘い声で言うから
華奢なグラスごと観葉植物の囲いの中に放って
僕は九条さんの腰に両腕を回した。
「ごめん。正直僕は心のどこかでこう思ってた―—本当は何にも変わっていないんじゃないかって」
「え……?」
「それで君に連絡できないのもあった」
「僕が……あなたを騙しているかもって?」
トクンと心臓が跳ねる。
九条さんは静かに首を横に振る。
「いや。そんな風には思わないよ。君が嘘を吐く時は誰かを騙す為じゃない。自分を守る為だから——」
そうなのか?
僕は自分の知らない顔が写された鏡を覗き込むように九条さんの瞳に見入った。
「だから余計にどうしてあげたらいいのか迷うんだ——Mom bebe」
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