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その日から私達は、毎日一緒にいるようになった。というより、気付くと常に隣に茉紀がいた。
こんなになつかれるのは初めてで、鬱陶しいと思う反面本当はすごく嬉しかった。初めてできたちゃんとした友達。けれど、この時はまだ疑心暗鬼だった。
ある時、放課後あの4人組が一緒にいるところを発見した。
茉紀は面白そうにニヤニヤしながら「あー、あゆみちゃんじゃん!」とあゆみちゃんに話しかけた。
あゆみちゃんと話したことなんてないじゃん! と心の中で叫ぶ私をよそに、彼女はさも親しげに肩に手を置いた。
私は、できたら関わりたくなかったのだけれど、4人の視線が茉紀を辿って私に着き、思わず目を逸らした。
茉紀の姿が異様に見えるのか、4人は顔を見合わせて、表情をひきつらせている。あゆみちゃんが何かを発する前に「彼氏元気?」と聞いた。
私も彼女達も訳がわからないといったように顔をしかめたが、あゆみちゃんだけは青ざめていた。
「隼人くんだっけ? サッカー上手くて有名なんでしょ?」
茉紀は、褒め称えるように声のトーンを上げた。隼人くんは、私が好きだった人。そして、隼人くんはりさちゃんのことが好きで、あの事件後すぐに2人は付き合い始めたと聞いた。
最初から両思いだったくせに、私の恋を応援する振りをしたのかと思うと、それすらも許せなかった。しかし、茉紀はあゆみちゃんに彼氏は元気かと聞いたのだ。
「何言ってんの?」
当然、聞き返すあゆみちゃんだが、声は震えている。
「え? だってこの前体育館の前で抱き合ってたじゃん。キスもしてたじゃん」
茉紀は、わざとらしく「あー、羨ましい!」と言って笑っている。
「あゆみ、どういうこと?」
「りさ、違うって。そんなわけないじゃん! この人がおかしいこと言ってんだよ」
あゆみちゃんは、必死に弁解しようとしている。どうやら、りさちゃんの彼氏、隼人くんとあゆみちゃんは浮気をしているらしかった。
「おかしくなんかないよ。だってさやかちゃんは知ってたんでしょ? 2人でコソコソ話してたじゃん」
「わ、私知らない……」
さやちゃんまで青ざめて声を震わせている。
「ねぇ、さやも知ってたってどういうこと!?」
りさちゃんは顔を真っ赤にさせて、声を荒げている。
「あれ? 違ったのかなぁ? まあ、いいや。じゃあ、私達は帰るから」
もはや話を聞いていない4人に茉紀はそう告げて、私についてくるように顎で行き先を示した。
「明日面白くなるぞー!」
茉紀は両手をぐーんと上に伸ばして廊下に響き渡る声で言った。
「ごるあぁぁ! 安藤! まぁたお前かぁ! この不良娘がぁ!」
20mほど先から、巻き舌気味に体育の澤村先生が鬼の形相でこちらに向かってきている。
「やばっ! まどか! 逃げるよ!」
茉紀に手を引っ張られ、澤村先生から逃げる。髪の色を黒くしてこいって昨日も怒られていたっけ。生活指導室にも何度も呼び出されているし、その度に母親も呼び出されて謝っていた。
その割りに茉紀は毎日ちゃんと登校してくるし、遅刻も欠席もない。授業もちゃんと出ているし、授業中に居眠りをするなんてこともない。学力テストの総合点数だって私よりも上だった。
「ねぇ! もう走れない!」
私がそう言ったことでようやく足を止め、2人で息を切らした体を落ち着かせる。茉紀と目が合うとゲラゲラと一緒になって笑った。
「もういい加減髪の毛染めたらいいのに」
「えー。まどかまでそんなこと言う?」
「だって、毎日怒られるの嫌じゃないの?」
「嫌だけどさ、今しかできないじゃん」
「え? 今はできないでしょ?」
校則がちゃんとあるのに今しかできないという茉紀の言葉の意味がわからなかった。
「大人になったらさ、自分の責任は自分でとらなきゃいけないし、ルールももっと厳しいんだって。だから働き始めたら、髪もこんなに明るくできないし、社会のルールに従わなきゃいけなくなるじゃん。でも今なら毎日怒られるけど、子供だから許されてる部分はあるでしょ」
「そうだけど……」
「ママがさ、毎日のように呼び出されてるの見るのヤダよ。でも、ママが私の子ならやりたいこと全部やって堂々としてなって言ってくれた。でも、髪の色は夏休みだけにしとけって怒られたけどね。化粧も学校にはしていくなって怒るけどね」
「怒られてるんじゃん……」
「うん。だから、夏休み過ぎたらちゃんとする。髪も黒くするし、化粧も休みの時だけにする。だから今だけ一緒に怒られてくんない?」
図々しいお願いだというのに、自分に素直な茉紀の言葉に笑ってしまい、気付けば頷いてしまっていた。
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