師走

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「そんなことないし! りさのこともさやだってゆいだってそれなりに可愛いと思ってるから友達なんだもん!」 「うわ、それなりにだって」  茉紀はあゆみちゃんの揚げ足をとっておどけて見せる。  それに対してあゆみちゃんは鼻息を荒くさせて「うるさい! 4人で一緒にいたんだから誰が1番とかないでしょ!」と言った。  いつもは冷めた目付きでこちらを見てくるあゆみちゃんが興奮している姿は、獰猛な獣のようで見苦しく思えた。周りの子達も、醜いものを見るような目で距離を置こうと後退る。 「そう? でもゆいちゃんは、あゆみちゃんよりりさちゃんの方が可愛いって言ってたよ?」 「え?」 「さやちゃんは、あゆみちゃんの方が可愛いって言ってくれるから、あの2人よりも仲良しなんでしょ? でも、ゆいちゃんとさやちゃんが一緒にいる時は、あゆみちゃんは気が強いから褒めてあげないとめんどくさいって言ってたよ」 「はぁ!? そんな嘘、誰が信じると思ってんの!?」 「嘘じゃないよ。本人達に聞いてみなよ。さやちゃんとりさちゃんが一緒にいる時には、ゆいちゃんってそこまで可愛くないよねって2人で笑い合ってたし。お互いに誰かより自分の方がマシって思い合ってるから仲良しでいるんだよね? だって、りさちゃんより自分の方が可愛いと思ってるあゆみちゃんは、ゆいちゃんとさやちゃんのことなんて眼中にないもんね?」  茉紀がそこまで言うと、あゆみちゃんはわなわなと震え、何も言わずに教室を飛び出していった。  私が唖然としていると「まどかも何か言ってやればよかったのに」と言った。  私には、茉紀に勝る言葉を探せるとは思えなかった。それよりも、なぜ茉紀があの子達の内部事情に詳しいのかが謎だった。 「何でそんなに色んなこと知ってるの?」 「私、1人でいること多かったし澤村から逃げてる時とかにこっそり話聞いてたんだよね。それに、他のクラスの子に聞いたら他にも嫌な思いさせられたっていう子達が皆教えてくれたよ。親切だね」 「親切っていうか……茉紀のことが怖いだけだと思うけど」 「は!? 私のどこが怖いわけ?」 「だってヤンキーじゃん……」  初めて会った時、二度見した程怖かったし。今では私に対して怒ってくることはないと理解できるけれど、あの時の衝撃は今でも忘れられない。 「ヤンキーじゃないよ! 素行は悪くないでしょ?」 「え?」 「え? じゃなくて。私は、ヤンキーじゃなくてギャルなの。ルーズソックスだって履いてんじゃん。メイクだってギャルメイクでしょ? カツアゲもしない、喧嘩もしない、犯罪は侵さない。ただ好きな格好をして可愛くいたいだけの純粋な中学生だよ?」  オシャレに興味のなかった当時の私は、ギャルもエッグもルーズソックスもパラパラも知らなかった。  あの長すぎる靴下をだぼだぼさせているのが何なのかわけがわからなかった。その後、私はギャルについて茉紀から色々学ぶことになるのだけれど、そんな話の最中、激しい言い争う声が廊下から聞こえた。  廊下に出ると、4人が取っ組み合いの喧嘩をしていた。 「ふざけんな! ブス!」 「はぁ? あんたが男盗ったからこんなことになってんでしょ! お前の方がブスだからな! 調子乗んな!」 「言っとくけどあの男、私にもりさより私の方が可愛いって言ってきたからね! 別にあんただけじゃないから」 「何で知ってて言わなかったの!? 裏切りじゃん!」 「何が裏切りだよ! 隼人に私のことウザイって言ってたの知ってんだからね! お前が1番ウザイんだよ!」  もはや誰の声なのかもわからない程激しく飛び交う罵声。  汚い言葉で罵り合い、掴みあって、髪を引っ張り無惨な姿になっている。  去年憧れた華やかで可愛い姿はどこにもなかった。ただただ醜く、憎悪さえ感じる禍々しい気迫。 「うわ……」  思わず出た一言に、茉紀は「あんた、あんなのと友達だと思ってたんだよ」と言った。
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