師走

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 思い出すと笑えてくることばかりだった。  茉紀といると何もかもが新鮮で、珍しいものが多くて、色んな人との出会いがあった。  私が隼人くんを忘れて他の男の子を好きになると、その恋を全力で応援してくれた。邪魔をしようとする子がいればいつでも私の味方をしてくれたし、私の背中を押してくれた。  高校へ進学する時には、茉紀は私の姉が行っていた高校へ行き、私は福祉科がある高校へ進んだため、離ればなれになった。  自分が行きたい道に進めたのも、茉紀が自分の意思を大切にするようにと言ってくれたからだ。  彼女がいつでも近くにいたから、私は少しずつ自分を出せるようになっていった。高校で別々になってからは、彼女と会う機会も少なくなり、また徐々に後ろ向きになっていた。  今の私はあの頃にそっくりだ。社会人になって自分に使えるお金が増えると、また茉紀と一緒にいる機会が増えたが、彼女が結婚して子供ができて忙しくなるとまた会わなくなった。  私も雅臣と付き合い始めて新鮮味はなくなり、仕事の多忙さを理由に茉紀を誘うことが少なくなった。  当然1番の親友である茉紀を誘うことがないのだから、その他の友達に私から声をかけることはない。  珍しく高校時代の友達や、大学時代に仲良くしてくれた子から声がかかり、食事に行ったり飲みに出たりしたことはあったが、一時のブームが去って皆が結婚すると、やはり誘われることは少なくなった。  今回雅臣の浮気があり、私から茉紀に連絡を取ったことでここのところ、頻繁に連絡を取り合い、会うこともできている。強引で我が儘だけれど、彼女と一緒にいると落ち着く自分がいた。  もう一度あまねくんに送ってしまったメッセージを見る。  茉紀が勝手に送信ボタンを押してしまった。けれど、そのおかげで彼のクリスマスイブは、私と過ごしてくれることになった。  向こうにとってはまだ友達としての感情しかないかもしれない。けれど、どうしても期待してしまう。もしかしたら、特別な感情を抱かれているんじゃないかだなんて。  その期待がこんなにも甘酸っぱくて、暖かくて、穏やかなのに、鼓動は速くなるばかりで、時々胸が苦しくなる。  私、あまねくんのことが好きなのかもしれない……。そう心の中で呟いた時、確信に近いものに変わった気がした。  4日後には、あまねくんに会える。そう思うと、普段の4日なんてあっという間なのにとてつもなく長い期間のように思えた。  今から寝て起きたら後3日。朝から仕事に行って、次の日は朝まで仕事をしてきたら、その翌日にはあまねくんと会える。  何時に会えるかな。また1日中一緒にいられるかな?  忙しい時期だっていったから、夜だけだっていい。一目会えたらそだけでいい。一緒にご飯を作って、彼の笑顔を見られたらそりゃその方がいいけれど……。  想像すると、自然と口角が上がっていた。うわー、私ニヤニヤしてる……。そんな自分に多少呆れながらもまた想像してはにやけるのを繰り返すのだった。  暫くしてから、そろそろシャワーを浴びて寝ようと、あまねくんとのトーク画面を戻ると、雅臣からメッセージが届いていることに気付いた。 [24日の夜って予定どうなってる? 今までクリスマスとかしてあげられなかったから、空いてるなら一緒に食事しない?]  目を疑うような文章が並んでいた。どういう風の吹き回しだろうか。  この5年間、クリスマスという言葉さえ彼から出てこなかったというのに。  今回に限ってクリスマスに誘ってくるということは、浮気がバレたかもしれないと焦っている雅臣からのご機嫌とりだろうか。それとも、どうせ毎年仕事をしているであろうクリスマスイブが空いているはずがないと思っての、とりあえず誘ってみただけだろうか。  どちらにしても、以前の私なら嬉しかったであろうこの文章も、今となっては不信感と違和感しかない。  クリスマス当日か23日のどちらかは、あのまゆという女と過ごすことになるのだろうか。或いは、私が24日を断ることを見込んで、既に24日に彼女を誘ってあるのか。後者である可能性は高い。  常に先の事を予想して行動を起こすのが口癖の彼のことだ。  祝日であり、皆が休み希望を出したいクリスマスイブに主任である私が休みをとっているはずがないと思っているのだろう。
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