師走

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「そんなにいくつも撮ってないよ」  笑って言えば、「う、うん……結婚式の写真もあるんだ」と言いながら、写真を捲っている。浮気現場の写真を撮ったことは間違いないと思っているのだろう。  あんなに必死に誤魔化してきたのに、きっと私だと気付いている。だからこそ、何としてでもその証拠を確認しておきたいのだ。  しかし、どうして今になって写真を探そうだなんて思ったのだろうか。  浮気をしていると知ってから、彼とは2度会っている。ドライブに行った日と、2週間前の家に行った時。あの時だって写真を探すために、この話題を振ればよかったのに、それをしなかった。  私は、勝手に雅臣が別れるつもりはなく、なかったことにしようとしているものだと思っていた。けれど、もしも私のフォルダの中に、彼と浮気相手の女性との写真が入っていたら、彼は何て言うつもりだったんだろうか。  これは違うんだと弁解するつもりなのか。潔く認めて謝るつもりなのか、それとも開き直って別れ話をするつもりなのか。  色んな選択肢がある中で想定してみるものの、どれが正解かを特定することができなかった。 「大塚さんの結婚式、凄く綺麗だったよ」  けれど私は、自然に結婚の話へと持っていくことができた。あんなにどう切りだそうか迷っていたのに、彼の方から結婚式の写真について触れてくれたのだから。  このチャンスを逃すわけにはいかないと、私は話を続けた。 「ねぇ、私達の結婚はどうするつもりでいるの?」  この5年間、私から2人の結婚の話に触れたことなどなかった。だから、彼は驚いたようにすぐに顔を上げて、私を見た。 「珍しい……。まどかから、そんな話が出てくるなんて思ってなかった」 「うん。私もあんまりしてこなかったけどさ、そろそろちゃんと考えなきゃかなって思って。結婚、するならいつするつもりでいる?」  私の心臓は、動きを速め、血流を速くさせる。血圧が上がりそうな程、内心は緊張している。彼が何て答えるか、何を考えているか、彼にとっての本命が誰なのか。 「あー……。そうだね。今はまだ忙しいからさ、結婚の話はまたにしようよ。確定申告終わってから考えよう」  目を泳がせて彼がそう言うものだから、この人は、私と結婚するつもりなんてないんだなと思った。  だって確定申告に関する仕事が全て終わるのは年度末。あと3ヶ月は私と結婚の話をするつもりはないということ。  3ヶ月あったら状況は変わるし、感情だって変わる。ましてや、浮気がバレたかもしれないという彼にとっては緊迫した状況。にも関わらず、慌てて結婚話をして繋ぎ止めておこうという気もないようだ。  何なら、数ヶ月先延ばしさせて、浮気相手との関係を清算させようとするか、私から結婚に対する期待を薄れさせ、破談に持ち込もうとしているかのようだった。  本命は向こうで、最初から私は浮気相手だったのかもしれない。  付き合い始めの頃から実は彼には彼女がいて、私は何も知らないまま自分が彼女であると思い込んでいただけなのかもしれない。  あの4人組のように、ゆかりちゃんのように、私のことなんて彼女だとは思っていなくて、勝手に彼女だと思い込んでいる都合のいい女だと思っていたのかもしれない。  もしそうだったとしたなら、私の5年間は何だったんだろう。雅臣の方が私のことを好きになって、こちらは経済力のある男からプロポーズされるのをただ待っていればいいと思っていた間抜けではないか。  最初から結婚する気などなくて、頃合いをみて別れようと思っていたとしたら……。  悲しくなってきた。浮気された怒りも、結婚を先延ばしにされた苛立ちも、そんな感情など全て小さく思える程、悲しみの方が大きかった。
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