師走

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「やっぱり冬は温かい飲み物がいいよね。部屋全然暖まんないし」 「ね、部屋の中って暖房止めちゃうと一気に冷えるよね」 「うん。中々部屋が暖まらないから、いつも体が暖まるのも時間かかるんだ」 「まどかさん、冷え性なの?」 「うん。指先はいつも冷たいんだよね。血流悪いのかな……」  あまねくんの手から離れてしまった左手は、すぐにまた冷えてしまった。冷たい空気の中で体温を保つのは難しい。 「冷え性って大変だね。夜眠れる?」 「ちゃんとお風呂で暖まれば大丈夫。冷えたままだと中々寝付けないけどね」 「女の人って冷え性多いよね。俺、体温高い方だからあんまり辛さわかんないけど」  彼は、申し訳なさそうに眉を下げる。 「体温高いんだね。でも、確かにこっち側だけぽかぽかしてきたもん」  あまねくんに隣接している部分がじわじわと温かくなっていくのを感じる。  もしも肉眼でサーモグラフィーのように見えたのなら、きっとここだけ赤くなっていることだろう。 「そんなに? この距離でわかる?」 「わかるよ。隣にいると暖かい」 「じゃあ、もっと暖めてもいい?」 「え?」  私の顔を覗き込むようにして、彼の顔が近付く。  彼の言葉の趣旨がわからなくて、目を瞬かせていると、「ぎゅってしたら怒る?」と彼は聞いた。  不安そうな顔でそんなことを聞かれたら、心臓を鷲掴みにされたみたいに苦しくなる。怒るはずがないし、そうして欲しいと期待している自分がいる。 けれど、抱きしめられたら呼吸が止まってしまうかもしれない。 「まどかさん、嫌?」  彼の問いかけに首を左右に振るだけで精一杯だった。  男性に触れられるのは初めてではない。散々雅臣とだって裸のまま体を重ねた。それなのに、衣類を纏ったまま彼に抱きしめられることの方が羞恥心を感じるだなんて変な話だ。  私が何かを発する前に、彼の胸に顔を埋めることになった。  背中に回された手が熱いくらいで、彼の体温を一気に感じた。  恋人繋ぎなんて比にならないくらい彼の温度も匂いも感じて、私の体は液体のように溶けてどろどろになっていきそうなイメージが沸いた。  行き場に戸惑う両手は、一瞬空に持ち上げて遠慮がちに彼の背中を通って肩を掴む。  もっと華奢だと思っていたのに、意外としっかりした骨格と脱力している柔らかい筋肉を感じた。 「まどかさん、細いね。コート着ててもわかる」  寒さから、まだお互いにコートを着たままだった。  こんなに一気に体温が上がり始めたらもうコートもいらない気がするけれど、身動きがとれないまま、彼に身を委ねた。
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