師走

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「ぜ、全然細くなんかないよ……。30代になってから体重落ちなくなっちゃったし」 「落とさなくていいよ。今のままで充分。これでも細いなって思うくらいだし」 「そんな事……」  電話と同じくらいの距離で彼の声が鼓膜を震わせることで、私の緊張は最高潮に達した。  思うように言葉がでなくて、ただ自分の鼓動の速さが彼に伝わらなければいいと願った。それなのに、背中にあった彼の手が私の髪に触れ、優しく頭を撫でられた。  たったそれだけなのに、全身を愛撫されたかのように身体中が痺れて内部から何かが疼く。 「髪、綺麗だよね。俺、まどかさんの髪好き。長くて真っ直ぐでサラサラ。柔らかくていい匂いする」  彼の顔がこちらを向いて、頭に鼻先と唇が当たる感触がした。  髪を伝って彼の吐息が耳介に触れる。鳥肌が立つほどゾクゾクと背筋を何かが這う。 「ずっと触ってみたかったんだよね。想像してたよりももっとサラサラだった。綺麗……」  ずっと触ってみたかった。そんなことを言われながら、私の髪を手ですくって、指を通す彼。  あの細くて長い指が、私の髪の間を抜けていってるのかと思うと、ほんの少しの感覚が体を熱くさせた。  更にぎゅっと力を込めて抱きしめられ、体が軋む。弓なりになるくらい密着する。  彼だって仕事帰りだとは思えない程爽やかで甘い香りがする。  雅臣に会う前にシャワーを浴びていってよかった。髪も体もまだ清潔を保てているであろうことが少しだけ救いだった。  私は、彼の言葉に何て答えていいかわからないまま、ぼーっとしそうになる頭を必死で働かそうとする。 「まどかさん……俺じゃダメかな?」  予想もしていなかった言葉に、私の思考は停止する。  何かを訴えるかのように更に強く抱きしめられる。呼吸筋が圧迫されて、息苦しさから「ん……」と吐息が漏れた。けれど、それすら心地よくて、彼に回した腕に力が入らなくなる程意識が朦朧とする。 「俺、年下だし、まどかさんよりも人生経験少ないし、考え方も子供だし、まどかさんの彼氏より収入も少ないけど……けど、絶対彼氏さんより俺の方がまどかさんのこと好きだと思う」  耳を疑う程の突然の告白に、頭の中が真っ白になった。  彼のことが気になって、声が聞きたいほど彼のことを考え、ことある毎に雅臣と彼を比較した。  あまねくんを好きになってしまっていたのは私の方で、知らない間に訪れた片想いだった筈なのに、彼は私のことを好きだと言ってくれたようだった。
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