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「もっとまどかさんと一緒にいたいし、色んなまどかさんを知りたい。ただ老後の生活のことだけ考えて結婚するくらいなら、俺じゃダメかな? 俺なら、まどかさんのこと裏切ったりしないし、こんなに悲しい気持ちにさせたりもしない。まどかさんのこと全力で守るよ」
私よりも年下の彼が、ここまで言ってくれるだなんて思ってもみなかった。
漠然ともし彼と付き合うことになったらなんて想像してみたりはしたものの、実際にこうして想いを告げられると心の底から満たされる何かがあった。
嬉しいだとか感動するだとかそんな言葉では言い表せないほど高揚する何が胸の中でざわめく。
「……私も。私もあまねくんのこと好き。もっと一緒にいたい」
ようやく出た言葉はそれだけ。押し潰された肺から絞り出すかのように小さく呟いた。彼にだけこの言葉が届けばそれでいい。
「本当? 俺のこと、男として見てくれる?」
「うん……。あまねくんといるとドキドキする……」
「……俺の方がドキドキするよ。本当は、初めて会った時から、ずっとドキドキしてる。映画館で隣にいた時も、ドレスアップしてた時も。家まで送った時も、こうやってぎゅってしたかったけど、我慢した……」
「……そうなの?」
茉紀は、まどかじゃ勃たないんじゃない? なんて言ったけれど、彼も私のことを女性として意識してくれていたようだ。
恋愛対象になんかならない30代独身のイタイ女だと思われていた可能性だってあったのに、私と同じように気持ちを昂らせて、胸を高鳴らせていたのかと思うと、その全てを受け入れたくなる。
「そうだよ。正直、まどかさんが彼氏と会うの嫌だった。もうそんなに気持ちもなくて、経済力があるから一緒にいるだけだって聞いて……酷い女だなって思う反面、ほっとしてた」
それを聞いて、やっぱり酷い女だと思われていたのかと少し胸が痛んだ。
「毎日ラインしたのだって、まどかさんと連絡とっていたかったっていうのもあるけど、彼氏といる時間をちょっとでも邪魔したかった」
「え?」
続く彼の言葉に、うっすら独占欲を感じて、また身体中の細胞が引き締まる気がした。
「連絡こないと、今彼氏と会ってるのかなとか、こうやってまどかさんに触れてるんじゃないかって思うとモヤモヤして……ごめん。俺、まどかさんの彼氏にすごい嫉妬してる」
彼の腕が緩むことはなくて、心地よい息苦しさに包まれたまま、彼の心中を知る。
雅臣に対する愛情なんてとっくになかった。それでも慣れすぎて当たり前になっていた彼とのセックス。
ただこんなふうに抱き合うだけで胸が高鳴ることなんて、彼との間には存在しなかった。そんな彼に対して、あまねくんは嫉妬するほど、私のことを好きになってくれたのだ。こんなに嬉しいことはない。
「ごめん……まさか、あまねくんがそんなふうに思ってくれてるなんて知らなかったから……」
「ううん。俺もポーカーフェイス気取って、隠してたから。でも、もう我慢したくない。まどかさんが彼氏と別れたいって思ってるなら、別れて俺のこと選んでほしい」
「……私でいいの?」
「まどかさんがいいの」
「私、年上だよ?」
「うん。魅力的だよ。大人っぽくて、色っぽくて、俺みたいな子供が簡単に手出せるような相手じゃないことくらいわかってる。でも、まどかさんのこと、諦めたくないんだ。絶対、大事にするから、俺のこと選んでくれる?」
「……うん。私、あまねくんが言う程いい女じゃないよ。他人に流されて自分の意見も言えないし、浮気されても文句も言えないし、経済力だけみて結婚しようとしてたし」
「それ、全部外面のまどかさんでしょ。俺だけには、本当のまどかさん教えて。彼氏にも見せたことない誰も知らないまどかさん見せて。まどかさんがどんな悪女だったとしても受け止めるよ」
彼がそんな言い方をするものだから、私はどれ程汚い部分を隠し持っていると思われているのかと、思わず笑ってしまった。
「いいの? すっごい我が儘で強欲かもしれないよ?」
「いいよ。まどかさんの我が儘なら全部ききたい。そしたら、ご褒美でまたこうやってぎゅってさせてくれる?」
「何でそんな可愛いこと言うの?」
「可愛いって言われるの嫌い……」
「あ……」
「でも、可愛いって言ってまどかさんが甘やかしてくれるなら悪くないかも」
私の髪に頬擦りする彼が、子犬のようで可愛くてずっとこのまま抱きしめられていたいと思った。
他人からこんなに満たされる幸せをもらったのは初めてかもしれない。
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