師走

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「あまねくん……?」 「んー?」 「あ、あの……」 「どこまでならいい?」 「え?」 「髪はいいんでしょ?」  そう言って私の左側頭部に顔を埋める彼。ぐっと体が近付いて、抱きしめられていた時と同じくらい体温も匂いも感じる。  彼の吐息が耳にかかってくすぐったさから、身を捩る。 「おでこもいい?」  返事をする前に髪をかきあげられて、額にキスを落とされた。  柔らかい感触を直接肌に感じて、触れられたところがじんじんと痺れた。 「ほっぺは?」  そのまま左頬にキスされる。聞いたくせに、答えさせてくれないなんてずるい。そう思っていると、彼の左手が私の顎を持ち上げて、親指が唇の上に乗せられた。 「ここはまだダメ?」  ゆっくりと唇をなぞられて、私は首を縦に振る。けれど、彼の手で固定されていて、うまいこと頷けなかった。 「触るだけならいい?」  言いながら、彼の指先が唇の間を縫って侵入してくる。  ぐっと唇に力を入れてみたのだけれど、彼の指先はいとも簡単に爪を使って歯列を押し上げ、舌先に触れた。 「んー……」  彼の親指を咥えている状態となり、羞恥心から顔が熱くなる。  慌てて彼の左手を右手で掴むが、肘をついていたはずの彼の右手に阻止され、そのまま床に押し付けられた。 「誘っておいておあずけなんて意地悪するから悪いんだよ」  中で指を動かされて、指紋のざらつきが舌先に伝わってくる。 「ん……」  更に奥まで侵入すると、ぴちゃと水音が静寂の中で響く。  頭の中も体も麻痺しているかのように痺れて感覚さえもわからなくなる。背中に当たるフローリングの床が硬くて、冷たくて訪れるはずの嫌悪感さえ、なかったことにされているようだった。 「まどかさん、本当に綺麗だね。早く俺のものにしたい……」  上から見下ろしていた彼が、また身を屈めて髪にキスをし、そのまま耳元で「いつ、俺のものになる?」と聞いた。  ゾクゾクと鳥肌が立って、ぎゅっと目を瞑る。生暖かい感触が耳を這う。  吐息と、水音とヌメリのある感触。彼の指が私の舌先を撫でると、私の耳を這う感覚が彼の舌であると誇張しているかのようで、下腹部がぎゅうっと締め付けられた。  突然耳介に軽く痛みが走り、歯を立てられたのだと想像した時には「あっ……」と声が漏れた。  口を開くのを待っていたかのように、彼の指が奥まで侵入してきて、ざらつきを感じる範囲が多くなる。  体が小刻みに跳ねて、ゆっくりと押し寄せる快感に耐える。  耳がこんなに気持ちいいなんて知らなかった。下半身が熱くなるのを感じて、空いている左手で彼の袖を掴んだ。  彼の舌が私の耳から離れて、顔をあげると艶やかな雰囲気の彼と視線がぶつかる。  多分私、今顔真っ赤だ……。自分でもわかるほど全身が熱くなっている。  彼は微笑を浮かべて私の唇からも指を引き抜く。  彼の指先に透明の糸が伝って、自分の唾液であると認知した途端、耐えられないくらいの羞恥心が押し寄せる。  けれど彼は、何てことのないようにその指を自らの唇に押し当てて、舌を這わせた。その姿があまりにも官能的で、いけないものを見せられている気分になる。  心臓が体の至るところにあるのではないかと思えるほど、全身が脈打っている。 「次は直接するから」  低い声が、彼ではないみたいで身震いする。声にならず、息を飲む。  そんな私にニヤリと笑って「まどかさんも濡れた?」と聞いた。まだ上昇するのかというくらいかぁっと熱が込み上げる。  いたたまれず、下唇をぐっと噛んで耐えると、彼はクスクスと笑って「意地悪した仕返しだよ。自分がどんな恥ずかしい質問したかわかった?」と言った。  私は、ようやく背中の痛みを感じながら、ただこくこくと頷くことしかできなかった。私は、どうやらとんでもない子を好きになってしまったようだ。
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