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「さすがにこれ以上は、本当に我慢できなくなっちゃうからやめておくね」
彼はふふっと笑って私の上から体を上げると、私の手を引いて、上半身を起こした。
「背中、痛かった? ごめんね? ちゃんとする時はベッドでするから」
そう顔を覗き込まれて、また体温が上昇する。何も言えずにいると「……まどかさん、初めてじゃないよね?」と聞かれる。
「え?」
「今まで、彼氏とする度そんな反応してたの?」
「や……そんな、ことないと思うけど……」
「彼氏さん、よく浮気する気になるよね……。俺、まどかさんがどっかで他の男にこんな顔見せてるかもしれないって思ったら、とても浮気しようなんて考えられないよ」
彼は、信じられないと言わんばかりに眉間に皺を寄せている。
私だって、こんなふうにドキドキさせられるのは初めてなのだから仕方がない。
正直、雅臣も含めて今までセックスが気持ちのいいものだと感じたことがなかった。皆していること、恋人ならしていて当たり前のこと。男性だけが快感を得るもの。そう思っていたから。
それなのに、唇をなぞられて、耳を舐められて、たったそれだけなのに、身体中が疼いてしかたがない。こんな経験は初めてなのだから、あまねくんの言う初めては、あながち間違いでもないかもしれない。
「……他の人とはこういうことしないよ」
「しちゃだめ」
「うん。……あまねくんだけにする」
スカートの裾をぎゅっと握って、俯いた。彼と視線を合わせていては、心臓がもたない。
「可愛いなぁ……。まどかさんは、綺麗も可愛いも両方持ってるね」
「そんなことないよ……。可愛気ないところいっぱいあるし」
「全然思い付かないけど。まどかさん……本当に俺のこと好きになってくれたんだよね?」
「うん……好き」
「彼氏さんと別れたら、俺と付き合ってくれるんだよね?」
「う、うん……あまねくんさえよければ」
「俺は大歓迎だよ。じゃあ……何があっても俺のこと信じてくれる?」
お互いにフローリングの床に座ったまま、会話をする。
恥ずかしさのあまり、彼の顔を見れずにいたのだけれど、遠慮がちに彼がそう言うものだから、私は無意識に顔を上げ、彼の目を見つめた。
「……うん。信じるよ」
「何があってもだよ?」
「……うん。何で?」
「何でも。まどかさんが俺のこと信じてくれたら一生幸せにする」
「……一生?」
「うん。ずっと一緒にいる」
迷いなくそう言ってくれる彼の言葉が嬉しくて、自然と顔が綻ぶ。
毎日こんなふうにあまねくんと一緒にいられたら幸せだろうなと思う。
こんなに優しくて気遣いのできる彼のことを信じてついてくのは難しいことではない。
雅臣のことを疑いながら、不審に思いながら自分の気持ちを誤魔化して今まで別れられずにいたことを思えばむしろ簡単なことだ。だって、私の方こそずっと一緒にいたいと思える程、彼のことが好きなのだから。
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