師走

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 彼と一緒にいる時間は楽しくて、幸せで時間がいくらあっても足りない。  ソファに戻ってほんの少し話をしていただけだと思っていたのに、時計は23時を回っていた。 「あ、もうこんな時間」  あまねくんは、パンツの後ろポケットからスマホを取り出し、画面を見ながらそう言った。 「じゃあ、まどかさん明日もあるし……」  彼がそう言いかけると、急に不安になる。  鳴り止まない私のスマホはとっくに電源を落としてしまっているし、電源を入れたらまた電話がかかってくるかもしれない。  あまねくんと一緒にいたから、雅臣とのことも忘れられていた。あまねくんが帰ってしまったら、この空間の中で一人でまた雅臣のことを考えてしまう。 「……帰っちゃうの?」  不安が大きくなり、彼のスーツの裾を掴んで引き留める。 「明日も来るよ?」 「……うん」 「スーツのままじゃさすがに、ね?」 「……うん」 「仕事帰りだからシャワーも浴びたいし」 「……うん」  わかってはいるのだけれど、彼が帰ってしまうとなると寂しくてしかたがない。  今まで1人で過ごす時間も大好きで、誰かが傍にいてくれないと不安になることなんてなかったのに。あまねくんが帰ってしまうことがこんなにも寂しいだなんて、私もどうかしている。 「そんな顔しないで」 「……ごめん。明日、お昼過ぎ?」 「うん」 「わかった……。待ってる」  項垂れる私の頭を優しく撫でながら、彼は「待ってられる?」と聞いた。 「うん……」  こくんと頷くと、「寂しいの?」と下から顔を覗き込まれる。  綺麗な顔が近付いて、濁りのない眼球が私の目を捕らえる。 「……寂しい。もう1回ぎゅってしてほしい」  こんなおねだり、今までの彼氏にも誰にもしたことないのに、このままあまねくんがいなくなってしまうのがとても嫌で、最後に彼の温もりを覚えておきたかった。 「え? ……まどかさんからそんなこと言われたら俺、帰れなくなっちゃう」  困ったように笑いながら、優しく抱き締めてくれた。あの力強い骨が軋むような抱擁ではなく、本当に包み込むように甘く、優しく。  彼の胸に頬を擦り寄せれば、壊れ物を扱うかのように慎重に私の頭を撫でる。 「困ってる?」 「んー? 困ってるかな……」 「……ごめんね」 「謝らなくていいよ。ただ、一晩一緒にいるっていうのはさ、さっきも言ったけど俺も結構我慢してるわけだから」  躊躇いがちにそういう彼。私がキスも許さないから、傍で一晩過ごすのが辛いということだろうか。 「ごめん……我が儘ばっかり言って」 「我が儘だとは思わないけどさ……。うーん、じゃあわかった。シャワー浴びて、着替えたら戻ってくる」 「え?」 「それでいい?」 「でも……」 「大丈夫、そっちの処理もしてくるから」  さらりと言ってのけた彼に、思わず赤面する。  その顔を見られたくなくて、彼の胸元にぎゅっと顔を押し当てる。 「何でまどかさんが照れるの。好きな人がこんなに傍にいるのに1人で処理させられる俺の気持ちも考えてね」 「はい、ごめんなさい」  耳元で釘を刺されて、素直に謝る。彼は少し笑いながら「じゃあ、待ってて。まどかさんもお風呂入って寝る支度してて」と言った。
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