師走

49/49
前へ
/186ページ
次へ
 着信はいいとして、ラインのメッセージを開いた。 [何で急に帰ったの? 店、気に入らなかった?] [今どこにいる? 食欲ないって言ってたけど、体調悪いの?] [せっかくクリスマスやろうって誘ったのに、急に帰るのはひどくない?] [プレゼントも用意してあるよ。電話出て。話しよう] [何で無視するの。店に置いていかれて惨めな気持ちになった俺のことも考えられないの?] [気に入らないことがあるなら言ってくれなきゃわかんない。とにかく連絡して] [自分勝手にもほどがあるよ。相手の気持ちも考えずに一方的に連絡絶つのは非常識だと思う] [キツイこと言ってごめんね。怒ってないから連絡して。待ってるから]  そこまで読んで身震いした。情緒不安定か。  最初こそは、私への気遣いが伺えるが、途中から自分を辱しめた怒りと思い通りにならない苛立ちが文章として伝わってくる。  それから打って変わってまるで猫なで声でも聞こえてきそうなほど優しさを表出させるような言葉を選んでいる。 「何でこんな人がよかったのかなぁ……」  すっかり雅臣への執着は冷めてしまい、私はあまねくんに夢中だ。  友達としても人としても好きだと思っていたが、どうやら勘違いだったみたいだ。  雅臣は人間性だって取り繕った薄っぺらい優しさしかないし、常識を語るわりに、浮気をしたりしつこく連絡をしたり常識の範疇を超えている。  その矛盾に気付かないふりをして、学歴や職業だけで頭のいい人だと決め付けていた。  けれど、彼はお勉強はできても人の気持ちを考えてあげることはできないし、自分の意見を正当化するかだけで決して賢い人間とは呼べない。わかりやすい肩書きにそそのかされた私も悪い。 [充電がなくて電源が切れちゃったの。今日は体調が悪くて、とても食事ができる状態じゃなかった。療養するから今日はもう連絡してこないで。また連絡する。その時にちゃんと話し合おう]  そう打ち込んで送信した。  5年も付き合ってきた相手にラインや電話で別れを告げるのも不誠実な気がして、私は彼みたいにずるいことはしたくないと思った。  ちゃんと雅臣ともう1度会って、彼との関係にけりをつけるつもりだ。今の私なら、彼と会っても毅然としていられる気がする。  だって、私にはあまねくんがいるから。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10288人が本棚に入れています
本棚に追加