9338人が本棚に入れています
本棚に追加
/186ページ
返信は昼休みに返せばいいや。そう思ってサインを閉じ、スマホをバッグの中にしまった。私は急いで家を出て、職場へ向かうのだった。
交代で昼休みをとり、私も他の職員に声をかけてから休憩室へ向かった。先に大塚さんが入っていて、笑顔でお疲れ様ですと言われた。
彼女は23歳と若いこともあるのだけれど、身長も小さく目はくりっとしていて可愛らしい子だ。幼く見える彼女が結婚すると聞いた時には驚いたが、相手は高校からの彼氏だと聞いて納得した。
「二次会のこと、千尋ちゃん通してになっちゃってごめんね。私から連絡しなきゃならなかったのに」
「いえいえ! 全然いいんですよ! お返事ありがとうございました」
「ううん、こちらこそお誘いありがとうね。でも、不参加でごめん。友達とか多くくると思うし、遠慮させてもらうね」
「はい。披露宴にきてもらえるだけで嬉しいです」
なんて可愛い顔で笑うのだろう。私にもこれくらいの愛嬌があったのなら、もっと違うモテ方をしただろうに。
私の20代は確かにモテた。ナンパもされたし、飲み会の後にそのまま抜け出さないかと誘われることも多かった。しかし、どちらかと言えばキツイ顔をしていると言われる私。髪の色も今より明るく、遊んでいるように見えたのか、体目的で近寄ってくる男も多かった。
それらをあしらっている内に、恋愛感情というものが徐々に薄れていき、20代後半になる頃には人を好きになる方法を忘れてしまった。
だから雅臣なんかは、大して好きでもないくせに、結婚相手に選んだと茉紀からも揶揄されるくらいだ。だからといって、誰とも付き合わず、結婚もしないなんて周りから何を言われるかわかったもんじゃないし、それに対して一々返答するのも面倒である。
それなら、一般的な人生を歩むのが無難というものだ。
「私、一さんの披露宴行きたいです」
「何、来てくれるの?」
「はい! ご招待してくれますか?」
「もちろん。でも、いつするかまだわかんないよ?」
「結婚の話は出てるんですよね?」
「まあね……。だけど具体的な話は進んでないの。お互いに忙しいしね」
「そっかあ……。私も、誰にも言ってないんですけど、実はプロポーズ私からなんです」
「え!?」
おっとりした印象の彼女からは想像ができず、思わず大きな声を出してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!