タイプじゃない

4/67
前へ
/186ページ
次へ
 婚約指輪といったら事前に彼の方が用意していて、プロポーズの時に渡してくれる。ドラマや映画を見ていてもそんなイメージだ。しかし、大塚さんは彼を連れて一緒に指輪を買いに行ったのだ。本当に人は見かけによらない。 「でも私、そこまでしてよかったって思ってますよ。もう入籍もして一緒に住んでますけど、今幸せですもん」  そう言った彼女はとても嬉しそうだった。こんなふうに女性の方から積極的に結婚の話を進めるのもありなのか。  私はその内雅臣の方からプロポーズしてくれるものだと思っていたが、大塚さんの話を聞いているとそれすらも怪しく思えてきた。 「自分から行動するのって大事なんだね」 「そうですね。でも、本当は私だって彼から言ってほしかったし、指輪も先に用意しておいてほしかったですよ」 「そりゃ、そうだよね。そこも含めて結婚の憧れだもんね。でも、結婚式も挙げてくれるんだから、彼いい人じゃない」 「そこは、彼の両親が先陣きって色々彼に言ってくれました」 「さすがにもう入籍すること決まったら、式はどうするのってなるか」 「はい。両親もいい人達でよかったです」  本当に嬉しそうな大塚さんを見ていると、本気で彼のことが好きなのだと伝わってくるし、これが本来の結婚の形なんだろうななんて思えてくる。そう考えると、私と雅臣の結婚てなんなんだろう。利害関係かなぁなんて思えなくもない。 「結婚って、お互いの両親や親戚も関わってくるから大変だよね。2人だけの問題じゃないし」 「そうですよ。一さんはもうむこうの両親に会ってます? 会ってないなら、早めに会っておいた方がいいですよ。うちのお姉ちゃんは、向うの両親と合わなくて離婚しましたからね」  急に真剣な顔をして、そんなことを言う。たった今おめでたい話をしていたばかりだというのに。 「え? もう離婚してるってこと? お姉さん、いくつなの?」 「今年27です。24で結婚して、2年で別れました。今子供連れて実家にいます」 「そう……大変だったんだね」 「本当に嫌な人達で、別居してたのに毎日のようにむこうのお義母さんが押しかけてきて、私のご飯じゃないと食べないからって言ってお姉ちゃんの作ったご飯を押し退けて出す始末だったし、旦那さんも旦那さんでせっかくの好意なのに嫌な顔するなんて人として最低だとか言ってお義母さんの味方。子供ができたら本当に旦那さんの子供なんでしょうねって言ってきて、女の子だってわかったら日頃の行いが悪いから男の子を授かれないのねって」 「それ、お姉さんに直接言ったの!?」 「そうですよ! 本当、頭にきますよ! 別れて正解だと思いましたもん」 「私もそう思う」  そんなことを直接言ってくる人間がいることに驚きだが、それに2年も耐えたお姉さんもすごいとしか言いようがない。私ならぶちギレて、義母に旦那の欠点を箇条書きにして突き付けるわ。  うわー……私、結婚できないかも。思い描いていた結婚とはあまりに違う例もあって、素直に結婚したいと言えない自分がいた。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9928人が本棚に入れています
本棚に追加