タイプじゃない

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「だから一さんも相手のご両親には気を付けてくださいね。あと、両親に対する彼の態度とか。私、一さんにはお姉ちゃんみたいな思いはしてほしくないので」  小動物のような可愛らしい大塚さんがこんなふうに真顔で言ってくれると、真剣さが伝わってくるようだった。  仕事では私の方が先輩だが、結婚に関しては彼女の方が先輩だ。今までも、既婚者の話を幾度となく聞いてきたが、大塚さんの話はいい意味でも悪い意味でも衝撃的だった。 「ありがとう。私も結婚どうしようかなって最近思ってるんだ……」  温め終わった弁当を開け、箸で金平ごぼうを持ち上げた。浮気のことを言うつもりはないけれど、実際に結婚について悩んだであろう大塚さんなら、他の職員のように単なる好奇心だけで結婚の話に触れてきたわけではないだろうと思えた。  悩みを聞いてもらおうとは思わないが、他の職員の前で幸せアピールを取り繕うのとは違う気がした。 「結婚やめちゃう気もあるんですか?」 「結婚しないっていう選択肢はないよ。将来のこと色々考えたらしたいとは思う。ただ、多分大塚さんの結婚とはちょっと違う気がする」 「でも、何か私わかります」 「んー?」 「一さん達は、大人のお付き合いって感じがしますもん。彼氏さんだってすごいお仕事に就いてるのに、人に聞かれるまでは言わないし、自慢してこないところがカッコいいって思います」  目をキラキラさせて言う彼女は、決して嘘はついていないようだった。若い子からはそんなふうに見えているのか、私。 「かっこよくなんかないよ。うちはさ、友達の延長線みたいなものだから。私の彼氏! って自慢するような甘いものでもないのよ」 「それがカッコいいですよ! 一さんて凄く美人だし、仕事もできるのに後輩にも優しいし、皆に平等だし。それでいて男性に依存するわけでもないし、自立してるっていうか」 「ちょっと、美化しすぎじゃない?」  初めてこんなに褒められたかもなんて、笑ってしまいそうだった。
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