タイプじゃない

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「一さんがデイサービス行っちゃうのいやですけどね……」 「うーん、私も今一緒に働いてるスタッフは皆好きだよ? そりゃ、慣れているところの方が働きやすいし。でも、正直夜勤辛くない? 大塚さんは続けるんでしょ?」 「そうですね。私は、旦那さんを急かしちゃったこともあるし、彼の収入だけじゃちょっと生活苦しいんで。子供が産まれても落ち着いたら夜勤やるつもりです」  自分の旦那をさん付けするのはどうかと思ったが、まだ23歳だ。あえて注意するのは小姑みたいでやめた。 「やっぱり金銭面考えると中々しんどいよね。でも資格も介護福祉士しかもってないしさ、超高齢社会の今、就職先はいくらでもあるけど、仕事内容が楽になることって絶対ないからね」 「そうなんですよね。友達にはお給料高くていいねって言われますけど、夜勤やらなきゃその辺の事務の子よりも低いし、夜勤だって寝ないで働いてるのに」 「ねぇ。こればっかりは経験者にしかわからないからさ。体力的にも精神的にも辛い仕事だよね。でも、子供が産まれても夜勤やろうって今から覚悟してるところは本当に尊敬するよ」 「えー! 一さんに尊敬するなんて言われたら頑張っちゃいますよ!」  また目を輝かせてこちらを見る大塚さんに、心が暖まる気がした。雅臣みたいに平気で人を裏切るような奴がいる中で、大塚さんみたいないい子も存在するのだから、世の中わからないものだ。  私は、ふと雅臣にラインの返信をしていないことを思い出し、大塚さんとの会話を続けながら、雅臣に〔仕事終わって支度できたら連絡する〕とだけ送った。  前回はとても会う気になれなくて断ったのだった。彼の浮気現場を発見してから彼と会うのは、これが初めてだ。  大塚さんとは、休憩時間中ずっと話し込んでしまった。結婚したいと思っていると彼女が言った時、主任として面談を行い、いろいろ話は聞いたが、こうして詳しく話を聞いたのは初めてだった。  彼女が恥をしのいで身の上話をしてくれた以上、私も少しプライベートな話をしてしまった。しかし、こうして信頼関係が築かれていくのも事実だった。
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