結婚相手に求めるもの

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結婚相手に求めるもの

 流れる冷たい水を眺めながら、手元は無意識に次々と食器についた泡を流していく。私は眠たい目を何とかこじ開けながら、それらを食器かごの中へと入れ、最後のスプーンを入れたところで水を止めた。  流し台から背面に振り返り、壁に取り付けられた箱形の下方からペーパータオルを勢いよく3枚引っ張り出し、手を拭った。 「片付け終わりましたけど、他に何かありますか?」  近くにいた50代の女性職員である近藤さんに声をかけた。 「全然! (にのまえ)さんが色々やってくれたおかげで日勤帯もだいぶ楽させてもらってるから。もう眠いでしょ? 早く家に帰って寝なよ」  明るく笑って見せる彼女は、年齢こそ私よりもうんと上だが、関係性としては私の部下にあたる。いくら部下とはいえ、年上の方に偉そうにできる性格ではない私は、気を遣いっぱなしだ。  高校を卒業してから福祉短大へ進んだ私は、介護福祉士として20歳でここ特別養護老人ホーム〔すずらん〕に就職し、もう12年目になる。  女性が多いこの業界は、ほとんどの人達が結婚や出産で退職したり産休に入ったりで、独身街道まっしぐらであった私はトントン拍子で主任にまでなってしまっていた。  主任と言っても名ばかりで、後輩達のメンタルケアや賞与時期の査定、個人面談を行うものの、普段の業務は他の職員達とは変わらない。24時間介護を必要とする高齢者が終の棲家として暮らす通称特養と呼ばれるこの施設では当然交代勤務なのである。  早番、遅番、日勤、夜勤と分けられ、今私はまさに夜勤を終えたところだった。
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