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家に着くと、町田を抱き上げる。朝比奈が寝室のふすまを開けると、町田が笑い出した。 「あはは、準備いいな」 既に布団が敷いてあったのだ。今夜はいっしょに寝るかもしれないと思って用意しておいた。 ゆっくり、町田を布団の上に降ろす。町田は寝そべると、シーツの匂いを嗅いでいる。 「これ、朝比奈くんの匂いがしない」 「朝、新しいのに替えました。俺の寝汗を吸っているシーツでしたくないでしょ?」 「墨の香りの中で抱かれたかったのに、うわっ」 朝比奈は勢いよく町田の上に乗っかった。足を絡ませ、腰を押しつける。 「抱かれたい」と町田の口からはっきりと聞き、むずがゆいような恥ずかしさが沸き起こった。 「俺の匂いなんか、今から、たっぷりつけてあげますよ。ほら脱いで脱いで」 「ああ、もう、ムードがないな」 町田のベルトを外すと、下着ごとズボンを降ろした。靴下はつま先から引っ張ると、まとめずに放り投げた。朝日奈は手早く、自分の衣服を脱いだ。 「……もう、我慢できない」 書の練習をしているとき、「終われば抱ける、終われば抱ける」と呪文のように唱えていた。ここ数日でたまった欲望と期待が今にも爆発しそうだ。膝立ちになり自分の服をすべて脱ぐと、町田の腕を引いた。 「シャツは自分で脱いで」 最後の選択は町田にさせた。まだ脱げないのなら触れ合うだけでいい。 「う、うん」 町田は俯いて、シャツのボタンを外していく。しかし、数個外しただけで手を止める。そのまま動かないので、町田の頭を引き寄せて髪にキスをした。 「まだ、できないかな?」 「いや、違う」 唇を噛み締めて、町田は首を振った。 「これから、きみに犯されるのかと思うと震えてくる。やっと手に入れられる。そう思ったらうれしくて、うれしくて……」 縋るように、町田がしがみついてきた。 「お願いだ、僕の服を脱がせてくれ」 昂ぶっているのか、町田は甘えたような声を出した。 「し、仕方ないですね」 冷たく言ったが、今のひとことは下半身にきた。 ことごとく町田は朝比奈を刺激する。 (もしかして、わざと俺を煽ってるのか?) 大きく息を吐いて、荒ぶる欲望を抑えた。力に任せ、引きちぎるようにボタンを外す。町田が上擦ったような変な声を上げた。 「あ、あっ」 「ちょっと、脱ぐだけで感じたんですか」 「ボタンが飛んだ。どうしよう」 「あとで探してあげますよ。ほら、こっちを向いて」 窓もカーテンも開けていない寝室で、町田の肌を見つめた。カーテンを通して夏の夕日が入り、部屋全体が熟した杏のような色になっている。 町田の肌は、陽を吸いこんだようにほのかなオレンジ色に染まっていた。 「痕、見えるか」 「いいえ」 町田は、泣き笑いのような表情になった。 「よかった……後ろ向きでしなくて済む」 「町田さん……」 力強く、町田を抱きしめた。もがいても離さなかった。 「朝比奈くん? 苦しい、苦しいって」 「大丈夫です、心配しなくても」 言わなくてよかった。 本当は、痕がうっすらと見えている。 町田が笑っていられるなら、これくらいの嘘はつける。 町田の胸に舌を這わせた。なめらかで少ししょっぱい。逃れようとする町田を押し倒して上に乗る。それでも、舌の動きはやめない。 「朝比奈くん、なんで……舐めるんだ」 「おいしいからです。ここも、ここも、すげえうまい」 なだらかな胸の筋肉を辿る。一度、やわらかな内股をさまよい、胴体を下から上へ進む。のどぼとけの辺りで散々遊んでから、首筋、顎を軽く食む。 「一番うまいところ、見つけた」 音を立てて、町田の舌を吸った。下半身が疼いてたまらない。 熱くなった局部を町田の下腹に擦りつけた。応えるかのように町田の腰が跳ねる。唇を味わいながら、互いの肌をまさぐった。 きわどいところに触れ合うと、忍び笑いが漏れた。 汗ばんだ胸をくっつけ抱き合う。ふたりとも息が乱れ、何も言えない。しばらくすると、町田が口を開いた。 「……あのさ、僕も舐めていいか」 「ええ、どうぞ……ん、う」 すぐさま、町田は朝比奈の胸の突起を口に含んだ。舌先で押し込む。唇で銜え、尖らせようとする。 「う、んん――」 朝比奈は唇を噛んだ。鼻にかかったような声が出てしまう。 乳首を舐められるなんて人生初体験だ。恥ずかしさと快感が、躯の中で混ざっていく。 笑い声がした。 おもちゃを見つけたいたずらっ子のような笑みを町田は浮かべている。 「ふふ。きみの感じた声、なかなかいいな。聞いているだけで僕も感じる」 「この、おとなしい顔して……!」 顔が一気に熱くなってくる。肩を押さえつけ、町田の肌に舌を這わせた。噛まれる度に、町田は短い声を上げた。首を振って町田は抵抗する。 「あ、あ――」 「どれだけ経験しているんですか。十人、二十人?」 「ん……女は、ふたり。いつも後ろ向きで。男とはしたことない」 朝比奈は動きを止めた。町田が睨んでくる。 「何だよ。少ないと思っているのか」 「いや、答えが返ってくると思わなくて――痛いっ」 思い切り頬をつねられた。 「聞く気がないなら質問するな。で、きみはどうなんだ?」 朝比奈は渋い顔をした。答えにくいことを答える羽目になってしまった。しかし自分も言うのがフェアだろう。 「あ、ああ、そうですね……もう少し、少ないですね」 「ひとりか」 「うーん、もうちょっと少ないです」 「まさか、童……んっ」 町田の口を塞いだ。反対の手で町田の中心を握った。 「そうですよ、童貞だからこういういじわるなこともするんですよ」 「ん、ん――」 ばれてしまったのだから、もう抑えなくてもいいだろう。やや性急に町田を追い立てた。 淫らに育っていく町田の屹立をじっくりと眺めた。 漏れ出た透明な先走りが朝比奈の指を伝う。汗とは違う、体液特有の蒸れた匂いが部屋に立ち込める。町田は眉を寄せている。 強く擦ってやると躯を震わせた。黒い髪が乱れていく。 「う、ん、ん」 「かなり興奮するな、これ」 無理矢理しているような気分になってくる。 突然、腰が浮き上がるくらい、町田は足を突っ張らせた。朝比奈の腕に爪を立てる。 眦に涙が浮かんでいる。限界が近いのだろう。更に強く、町田の欲望を擦り上げた。押さえていた手を外す。 「出せ」 「あっ、ああ!」 背を仰け反らせ、町田は精を放出した。ぼんやりとしたまなざしで汚れた自分の腹を見つめている。 その間に、粘りを指にまぶし、朝比奈は町田の秘所を突いた。 「ん、うう」 反発するかのように、町田の尻の筋肉が震える。しかし、朝比奈は太い中指を町田の奥へ押し込んだ。 指の腹を使って、中を広げていく。徐々に町田の内壁は、朝比奈の指を飲み込むように動き始める。 「あ……あ、ごめん」 「どうして謝るんですか」 ひどいことをしているのだから、拒まれても仕方がない。もちろんやめるつもりはないが。 「初めてなら、僕が、あ、愉しませないと……だから、好きなように挿れろ――う、くっ!」 驚いてしまって、思わず指を突き立ててしまった。 どうして、町田はいつも自分を燃え上がらせてくれるのだろうか。朝比奈は指を抜いた。 町田の膝裏を抱え、大きく広げる。両膝を曲げさせ、向かい入れるような形を取らせた。 熟れたように色づいている町田の深いところが露わになる。 「くそ、もっとゆっくりしたかったのに」 「それでい……い、ん――う、う」 充分に反り返った己の先端を、町田の窄まりに擦りつけた。 たったそれだけでも感じるのか、町田は歯を食いしばって悶えている。 触れ合ったところが芯をもったように熱い。 初めて感じる他人の熱だった。 腰を進め、固く閉じている蕾を割った。 「あ、あ……」 切っ先を挿れた瞬間、町田は目を見開いた。きっと痛いんだろうなと、朝比奈は頭の隅で思った。 でも、早く町田の中に注ぎたいという欲が、先行する。 町田が腰を引いた。 きっと無意識に痛みから逃れようとしているのだろう。 片手で町田の脇腹を掴み、反対の手で更に足を開かせた。 それでも躯をくねらせるので、両手で腰を抱えると折り重なるようにして身を沈めた。 上から下への重みを使って、町田を穿つ。 貫いた瞬間、今まで感じたことがない昂ぶりが背筋を走った。 一瞬、脳が溶けてしまったような錯覚が起った。うっかり射精しないよう、歯を食いしばってこらえる。 他人の中に己を埋めるだけで、こんなに気持ちよくなれるのか。息を吐いて、町田を見下ろした。 「あ、ああ……あ」 朝比奈が根元まですべて収めても、町田は喘いでいる。 朝比奈の呼吸に合わせて、町田の内側がわななくように蠢いている。朝比奈は息を整え、町田を抱え直した。 すぐにでも中を突きたいが我慢したほうがいいだろう。やさしく抱きしめ、町田が落ち着くのを待った。 (町田さん……つらいだろうな) そう思うけれど、町田の中はとても気持ちいい。 入っただけで、脳髄まで痺れるような快感が沸き起こる。これは癖になりそうだ。 盛った猿のようにがっついてしまうかもしれない。 町田の唇を貪る。躯の奥底から煮え立つ昂ぶりを抑えたかった。 けれど、深く唇を合わせれば、興奮は次から次へと噴出する。震えながらも懸命にキスに応えている町田を見つめた。 愉しませるなんて、意地らしいことを言う。 町田だって抱かれるのは初めてなのに。 痛いだけでは終わらせたくない。お互いに感じなくては、抱き合ったことにはならない。 肌を密着させて息を吐いた。目を閉じて、頬を擦り合せた。 こんなに苦しくさせたのだから、たくさんの快楽を与えてやりたい。 「あ、あさ、ひなくん……」 腕の中で、途切れ途切れの声がした。 「あまりにも、大きくて……びっくりした」 町田は笑った。汗で濡れた肌が艶やかに光っている。 耐えている顔もいい。匂い立つような色気を放っている。 (これは、慎重にやらなくては暴走してしまう……俺が!) 唾を飲み込んでから話しかけた。 「もうちょっと、このままでいますか」 「ああ……頼む」 言葉を交わさず、互いの顔を見つめた。 ふたりで書を書いたときも、抱く真似事をしたときも、間近で見つめ合った。 けれど、こんな顔は見たことがない。 上気していて、少し怯えているようだった。これから何が始まるか不安なのだろう。 宥めるように、静かなキスを何度も唇に落とした。ふっと町田の躯から力が抜けていく。 同時に、朝比奈を包む町田の肉がやわらかくなっていく。 (キスって効果あるのかな?) そう思ったので、何度もついばむようにくちづけをした。 「ん、ん……」 町田は、身を捩った。 「こうされるの、いやですか」 「いやではないけど、躯が、下が変になる」 変になるって悪い意味ではないのだろう。 現に唇をかさねる度に、町田の中は朝比奈に吸いつくように馴染んでいく。わかっているから、しつこくキスを繰り返した。 しかもわざとらしく音を立てる。 やがて、もっといじめたくなったので、舌で町田の唇を舐めまくった。 「う、う、ん――」 悶えながら町田は首を振っている。 さっき朝比奈の乳首を弄ったときとは違って、初々しい表情を見せている。泣きじゃくる寸前の顔みたいでかわいい。 「町田さんの中、ひくひくしている。こうしてほしい?」 「ん――あ、ああ」 ゆっくり抜いて、素早くひと突きした。身をくねらせ、町田は喘いだ。朝比奈にしがみついて、大きく息を吐いて睨む。 「きみは……結構いじわるだな。本当に、初めてなのか」 目は潤み頬が赤くなっていて、全く怖くない。 むしろ、もっとひどいことをしたくなる。 挿入してから間を空けたので、少し冷静さを取り戻した。嗜虐心が芽生え始める。 「はい、童貞です。だから町田さんが教えてください。どうやって突けばいいんですか。こうですか、それとも、こう?」 「うう、待て……あ、ん」 「待てません、ん……。早くしないと、く、う、出ちゃいますから。町田さんのいいところを、探さないと」 乱暴に抜き差ししたいという気持ちと、傷つけてはだめだという気持ちが、心の中でせめぎ合う。 結果、不規則なリズムで腰を動かすことになってしまった。 中途半端だよなと思ったけれど、適度な焦らしがいいらしい。 町田の声が少しずつ熱を帯びてきた。 朝比奈が突き上げると喘ぎながら身悶える。顔を歪め、朝比奈の猛り狂ったような昂ぶりを銜え込んでいる。 「あ! ……ああ――」 いろいろと角度を変えて擦っていたら、町田が特に反応するところを見つけた。 もっと貫けと言わんばかりに、締めつけてくる。 舌なめずりして、そこだけを執拗に攻めた。 「あ――ん……ああ」 幼い子供のように、町田は泣いて朝比奈を拒む。目を閉じて首を振る様が、よけい支配欲を刺激するのに。 朝比奈は笑みを浮かべながら、町田の中を汚していった。 夢中で尻を振っていたら粘りのある液体が混ざる音が聞こえた。 あふれた先走りで抽挿が楽になった。腿の筋肉を使って回すように腰を揺らせば、水音は更に大きくなる。 町田を犯していると実感した。 「ああ、すげえな、これ……」 ただ腰を振るだけの動きで、こんなに興奮できるとは思わなかった。これほど、強烈な刺激を味わってしまったら中毒になってしまう。 体位やテクニックがいろいろあるのはわかっている。 だが余裕がない。バカのひとつ覚えみたいに単純な抜き差ししかできない。 「うん――すごい、あ……あ」 揺さぶられながら、町田は頷いた。色白の躯が、血色のよい色へと変わっていた。 町田が、朝比奈の逞しい胴を引き寄せる。 貪るように唇を合わせた。 何度も中を突かれ、町田の躯はシーツの上へずれていった。 朝比奈は町田の腰を抱え直した。 力が入らないらしく、町田の両手が朝比奈の背から滑りシーツへ落ちていく。町田は皺の寄ったシーツを掴んだ。しかし、朝比奈がその手を外す。 「ほら、これを掴んだほうが安心しますよ」 朝比奈は自分の両手を握らせた。弱々しく町田が握り返してくる。 「そうだな、安心する……」 涙で濡れた顔で笑うから、意地の悪い質問をしたくなった。 「怖いですか、俺のことが」 町田は息を弾ませて笑った。熱い吐息が、朝比奈の胸にかかる。 「いや。初めてにしてはうまいなと思った。気持ちいい」 「う……」 (気持ちいいって、そこまで聞いていない!?) 溶けそうなくらい熱くなっている局部が、更に充血してくる。 町田の言葉は淫らな爆弾だ。 (言われる度に興奮する俺は悪くない。だから、激しくしてもいいんだよな……?) そう言い聞かせると、朝比奈はふたたび動いた。 さっきよりも強く大きく、自分勝手に。 「ん、待て……ああ、激しいって――」 朝比奈は構わず腰を振った。 やっぱり俺は猿になってしまったなと思いながら、精を放った。悶える町田を強く抱きしめる。 「あ――あ」 中出しされた瞬間、町田が朝比奈の腕を強く掴んだ。 与えられた快感が強すぎたのか、目を伏せ、瞼を震わせた。 痙攣する町田の腿を抱え直し、朝比奈はゆっくり腰を揺らした。 「……ん、うう」 呻きながら腰を押しつける。 下腹にたまった快楽を、すべて町田の中へ注ぐ。 きっと朝比奈の放った飛沫は、町田の粘膜に染み込んで躯を侵しただろう。 何度も擦られ赤くなった内側が、白濁で汚れていく。そんな町田の中を想像して、朝比奈は笑みを浮かべた。 ひとつになれた悦びに、心が満たされていった。 「町田、さん……」 愛しい人の名を呼び、強く抱きしめる。 町田は息を弾ませながら、朝比奈を抱きしめ返した。 町田の顎に唇を滑らせ、頬をつかみ、躯をつなげたままくちづけを交わした。 吐息混じりのキスを繰り返すうちに、下半身がまた熱を帯びてきた。 「……ま、町田さん。俺……」 朝比奈の様子に気づいたのだろう。 町田は笑って、朝比奈の頬を撫でた。 「朝比奈くん、しよ?」 「でも……」 「いっぱいしよ? 気持ちいいことなんだから、好きなだけしよう?」 「もう、あなたって人は……」 朝比奈は町田の腰を抱え直した。 揺らしただけで、さっき注いだ白濁が町田の窄まりから溢れ出した。 「ん、ん」 町田は下腹部を片手で押さえながら、目を閉じている。 「はあ、は……大丈夫?」 「あ、ああ……」 町田が潤んだ瞳で、朝比奈を見上げる。 「ちょっと……く、苦し、いけど……すごくうれしいんだ……だか、ら……遠慮なんか、するな……」 朝比奈は頷くと、大きく腰を動かした。 ――― 「熱い、中が熱い……」 下腹部を押さえ、町田が呻いている。あれから、「もう一回だけ、もう一回だけ」と互いに言って、何度も抱き合った。二回目以降は町田も同時に達したので、朝比奈は安堵した。 自分ばかり達していたら猿どころの話ではない。二度とやらせてもらえないだろう。 朝比奈は背を丸め、仰向けになっている町田の下腹部に唇を落としている。 終わったあと町田の全身にキスをした。ここが特に震えるとわかったので、何度も繰り返した。 朝比奈の髪を梳きながら、町田が呟いた。 「愉しませるつもりだったのに……翻弄されたな」 「翻弄されたのは俺のほうですよ。自分のしたいようにしちゃって……。つらくない、町田さん?」 「気にするな。感じすぎて疲れただけだ」 朝比奈は顔を上げた。町田は目を閉じている。さきほどの行為を思い返しているのだろうか。 「抱き合うなら、わがままなくらいがちょうどいいんだよ」 「うわ……また、爆弾発言だ」 さっき引いた熱が力を取り戻さないように、朝比奈は深く息を吐いた。 「きみもそう思うから、僕を激しく抱いたんだろ?」 町田がゆっくりと目を開ける。濡れたような瞳には交合の余韻が残っていた。 「えっと、そうですね。乱暴にすれば燃えるかなと思ってガンガンしました。うまくいってよかった」 いいえ、ただ盛っただけです、とは言えなかった。躯を起こすと町田を抱きしめた。 「でも、かなり激しかったですよね」 「ああ。反省しているか?」 「ええ、少しだけ」 「それなら、もっと強く抱きしめてくれないか。ぎゅうって。……まだ、もっと強く」 朝比奈が力も込めても町田は満足しなかった。朝比奈は町田の耳元にささやいた。 「俺が本気を出したら、町田さんは壊れちゃいますよ」 「僕は丈夫だから壊れない。抱いてみてわかっただろ?」 朝比奈は苦笑いをして町田にキスをした。今は、町田のひとことにこっけいなくらい動揺する。 これからは筋肉だけではなく自制心も鍛えよう。 そうすれば、もっと町田が安心できる男になれる。 「町田さん。明日になったら、いっしょに書きましょう」 町田は困ったように笑っている。 「できるかな。腰がすごく重いんだ」 「それなら、町田さんの胸に書きますか。こうやって、いやらしい言葉をたくさん」 人差し指で町田の鎖骨を撫でた。らせんを描きなら、ゆっくりと肌を辿る。 「朝比奈くん、何て書いているんだ?」 字を書く振りをして少しずつ胸の突起に近づいているのに、町田は気づいていないようだ。 年上とは思えないくらいあどけない瞳で、朝比奈を見つめる。 (こんな曇りのない目で見つめられていたら、いつか俺、変わるんだろうな。でも、それでいい。眩しいほどの光を町田さんからもらったことになるんだから) 「こういうことをしたいって書いたんですよ!」 足を開いて町田の上に跨り、発情した獣のように腰を振ってみせた。 「あはは! 今日はもう、無理だって」 大声で笑う町田の前髪をかきあげ、額にキスをした。 【終】
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