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大して高くもないビルの屋上から見た日中の街中は、人や車で溢れかえっていた。
車の音にざわざわガヤガヤ、人々が織り成す喧騒だけが辛うじて聞き取れる。
きっともう少し高いビルならそれすらも聞こえないのだろう。
人々はまるで中途半端に統制がとれた軍人のように歩く。
バラバラに歩いているかのようで、ある程度の方向は同じ。
道路を避け歩道を歩き、横断歩道を渡る。
上から見た動きなんて大体そんなものだ。
全員似たり寄ったりにしか見えないが、それぞれに人生や物語がある。
望む望まぬ関係なく、誰もが人生の主役なのだ。
母親に手を引かれる子供はきっと嬉しいのだろう。
母親は手を中にある宝物が愛おしくて仕方ないのだろう。
制服を着た学生達はテスト期間中の早上がりなのか、はたまたサボりか。
友達と仲良く歩く姿がとても目を惹く。
歩くサラリーマン達は営業か、仕事に生きがいを感じているのだろうか。
それとも辞めたくて仕方ないのか。
集団で歩く老人達は、毎日気楽に好きな事をして過ごす毎日で幸せだろうか。
ああ虚しい。
きっとみんな、全部ぜんぶ、自分にはない物をいっぱい持っている。
いっそ今このビルから自分が飛び降りたらどうなるのだろう。
この一連の動きをする人達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うのか、それとも物珍しさ故に現代的に携帯カメラを向けてくるのか。
幸せを感じている気持ちなんて吹っ飛んでしまうのか。
もしかしたら不幸のどん底に居る人は、仲間を見つけたと喜ぶのか。
今この場で誰もが自分を認識してないないそれが、たった一歩で変わる。
SNSや新聞で、自分の事が話題にされるのか。
もしかしたら、自分の自称友達なんて人が名乗りを上げて悲しみながら思い出を語ってくれるかもしれない。
ああ、様々な反応がとても気になって仕方ない。
そんな気持ちが、ビルの端に辛うじて付いている足を離させようとしてくる。
あと一歩。
たったあと一歩前に進むだけ。
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