誕生日

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帰り道はどのくらいかかるかな、、、と思っていたけれど、函館からの帰り道はやっぱり遠くて、家の近くに着いた時は、時計は7時を過ぎていた。 辺りは真っ暗だ。 楽しかった旅行も、もう終わり、、、。 帰り道は少し寂しくなってしまう。 家まで送り届けてくれる先生。 家の前に車を停める。 あ、そうか、、、。 もう、家の前に車を停めてもいいのか。 いつもの待ち合わせの場所じゃなく、家の前に堂々と車を停めるなんて、なんだか慣れなくて、少し戸惑ってしまう。 「こんな時間になっちまったな。」 先生は時計を見てボソッと呟く。 「すごく楽しかったよ!いっぱい思い出ができたよ!ありがとう!!」 そう言って先生に笑顔を向ける。 急な旅行だったけど、すごく楽しかったなぁ。 素敵な誕生日を先生と過ごす事ができて、とても嬉しいよ。 「じゃあ、、また連絡するね!」 そう言って、少し名残惜しい気持ちを抱えつつ、シートベルトを外した。 ドアを開けようとすると、先生もシートベルトを外して、エンジンを切る。 ??? ドアを開けて車から降りようとする先生。 え?? 先生も行くの?? なんで?? 「一応挨拶しとくわ。こんな時間になったしな。」 そう言って、先生は車から降りると、後部座席から荷物を取り出し、持ってくれる。 え!!! 戸惑っている私に、先生は、「ほら、行くぞ。」と声をかける。 そんな、、、。 挨拶なんて、、、いいのに、、、。 恐る恐る、先生を後ろにしながら、玄関を開ける私。 「、、、ただいまー。」 玄関先から、少し大きめな声で帰宅を告げる。 居間からお母さんが顔を出す。 「あら、おかえり。」  私の横に立つ先生の顔を見ると、お母さんは、一瞬にして、目を丸くした。 「あら!先生も、、、!!。お父さん!」 お母さんは、すぐさま居間にいるお父さんを呼び出した。 居間から顔を出したお父さんは、先生がいる事に気づくと、「あぁ、これは、どうも。」と、玄関先までやってくる。 「こんな遅くになってしまい、すみません。響さんと誕生日を過ごす事ができて感謝しています。ありがとうございました。一言ご挨拶をと思いまして、寄らせていただきました。」 先生がそう言って、お母さんとお父さんに頭を下げる。 「わざわざ送っていただいて、、、。すみませんねぇ。」 お母さんは、申し訳なさげに呟いた。 「これは、わざわざどうも。」 そう言うお父さんの表情は、昨日よりは少し柔らかい気がする。 、、、気のせいかなぁ?? 「どこまで行ってきたんだい?」 玄関先に置いた沢山のお土産の袋を目にしてお母さんが聞く。 嘘をついても仕方がない。 お土産も買ってきたしなぁ、、。 「、、、函館。」 そう言うと、お母さんは驚いた顔をしている。 「函館!?。あら、まぁ、また遠いところまで行ってきたのねぇ!」 お父さんも驚いた表情をしていて、、、。 そんな2人を前にして、先生が口を開く。 「遠くまですみません。函館の夜景を見せてあげたかったんです。急に行き先が決まったもので。」 先生が申し訳なさげに言うと、お父さんが、先生を気遣う言葉を口にした。 「、、、そうですか。遠くまで運転大変だった事でしょう。」 お父さんの口調が、なんだか柔らかいような。 やっぱり昨日とは態度が少し違うような気がする。 「いえいえ。楽しかったです。」 先生も、少しはにかんだ笑顔で答えていて、なんだか場が少し和んでいる、、、?? 親と先生の会話を横目にしながら、昨日とは少し違う雰囲気を感じていると、先生が、白い紙袋をお母さんに差し出す。 ??? なんだろ?? 先生、そんなの持ってたっけ?? 「これ、よかったら皆さんでどうぞ。向こうの地酒も買ってきたんで。日本酒がお好きだと聞いたものですから。」 先生はそう言って、お母さんに、紙袋を手渡す。 !?!?!? 私の荷物に紛れてて、全然わからなかったけど、 先生、うちの親にお土産買ってたの!? いつの間に!! 「あら、いいんですか?。すみませんねぇ。」 お母さんは和やかな表情で、白い紙袋を受け取る。 「わざわざ、どうもすみません。いただきます。」 お父さんも、地酒と聞いて、少し嬉しそうな顔をしながら言う。 あれ?? お父さんが日本酒好きなんて、私言ったっけ?? お父さんは確かに日本酒がとても好きだ。 でも、なんで!?!? 頭の中が疑問符だらけになっている私は、3人の会話を黙って聞きながら、呆然と立ち尽くしていた。 、、、よくわからないけど、お父さんとお母さんの機嫌は悪くないっぽい。 とりあえず、よかった、、、のかな?? この場もなんだか和んでるし、、、。 昨日のような雰囲気じゃなくて、ひとまず、ほっとしている私。 「では、僕はこれで。失礼します。」 先生がそう言って玄関のドアノブに手をかけようとした時、お父さんが先生を呼び止めた。 「、、、あーー、先生。」 ??? 先生は手を止め、お父さんの方へ振り返る。 すると、お父さんが思いもよらない事を口にする。 「、、、あー、今度うちで夕飯でも一緒にどうでしょう。」 え!?!? お父さんの急な提案に、先生もびっくりした表情を見せる。 お父さんは、少し視線をずらしながらも、頭をポリポリ掻きながら、呟く。 「、、、あー、いやぁ、先生とも色々お話したいですし。まぁ、今度、日本酒でも飲みながら、、。」 え!?!? 夕飯!? お父さんが先生とお酒!?!? まさかお父さんが、そんな事を言うなんて!! 一体どうしたの!?!? 昨日とは、全く違う態度を見せるお父さんに、驚きを隠せない。 お父さんは、少し照れたような表情を浮かべている。 先生は、驚いた表情をしていたけれど、瞬時にお父さんの意図を汲み取ったようで、、、。 「ええ。今度、是非。ありがとうございます。」 と、笑顔を向けた。 「、、、じゃあ、また今度。」 そう言い放って、早々に居間へと戻っていくお父さん。 どう考えても、おかしい。 どうしたんだろう? 唖然としていると、お母さんが、和やかな表情で、先生に声をかける。 「よかったら、今度是非いらしてください。お父さんも先生と色々お話したいみたいですし。」 「はい。ありがとうございます。では、失礼します。」 笑顔で先生はそう言って、帰っていった。 先生が出て行った途端、心の声がつい出てしまう私。 「夕飯って、、、。」 お母さんが、ふふっと笑う。 「お父さんも1日経って、少し冷静になったんでしょう。まだ悶々としてるんだろうけど、認めざるを得ないじゃないの。あんたよりずっとしっかりしてる人だからねぇ。」 そう言ってお母さんは、居間へ戻って行く。 、、、そっかあ。 お父さんも、先生に歩み寄ろうとしているのかなぁ。  少しずつ、認めてくれる気持ちになっているのかもしれない。 何かが変わりつつあるのは感じる。 お父さんもお母さんも、少しずつ私たちの事を受け入れてくれようとしているのかもしれない。 そう思うと、嬉しく思えて、頬が緩んだ。 家の中の空気が温かく感じて、私の心も温かくなった。 後日談、、、。 お父さんが日本酒を好きだなんて、どうしてわかったかと言うと、、、。 先生が挨拶に来たときに、玄関先に置いてあった日本酒のカラ瓶と、居間に飾ってあった飲みかけの日本酒を見て、先生はすぐにピンときたらしい。 先生曰く、、、。 「あんな凝った銘柄の酒飲むって事は、日本酒好きだってすぐわかるよ。」 との話で、、、。 お土産を買うなんて先生らしくないなぁなんて思ったけれど、、、。 その話をすると、「、、、まぁ、一応、、、な。」と、はぐらかされた。 少しずつ変わっていく私と先生の関係。 深いところまで、少しずつ進んでいるような、、、。 社会人になる春へと近づく私は、心が満たされていた。
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