誕生日

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料理を食べ終え、茶碗洗いを手伝う。 茶碗を洗いながら、お母さんが、お父さんとの結婚の馴れ初めや、昔の話を色々教えてくれた。 お母さんは、高校を卒業してすぐ、お父さんの勤める薬局の隣の商店で働いていたらしく、そこでお父さんと出会ったらしい。 毎日パンと牛乳を買いに来るお父さんが気になって自分から声をかけたらしい。 付き合ってすぐに、お姉さんがお腹にいる事がわかって、結婚したみたいで、20歳には先生を産んだ話を聞いて、びっくりしてしまう。 できちゃった婚、、、というやつだ、、、。 当時にしては、珍しい、、、のかな?? その後、ずっと専業主婦をしていたらしいけど、社会をあまり知らないお母さんは、このままじゃいけないと思ったらしく、子育てをしながら、医療事務の資格を取って、病院で働き始めたと聞き、またもすごいと思ってしまう。 この薬局をお父さんと2人でやっていくという事が、頭の片隅にあったらしく、今では事務の仕事が役立っているとお母さんは言う。 話を聞きながら、お母さんの努力や大変さを考えると、すごいなぁと感心してしまった。 「だから、結婚しても仕事はいくらでもできるし、子育てしながらでも続けられるわよ。今の時代がそうだものね。」 と、お母さんは笑って言う。 遠回しに、結婚を勧められているようで、何て返事をしていいのか困ってしまう。 「あずさも早く結婚しなさいって言ってるのよ。でも、あの子仕事人間だから、、、。早く孫の顔も見たいのに!」 何気にお姉さんの話まで出てきて、尚更返事に困ってしまう。 そんな会話をしながら、茶碗を洗い終える。 「響ちゃん、手伝ってくれてありがとう!あ、そうだわ、チーズケーキ食べましょう!!」 そう言って、お母さんが、買ってきたチーズケーキを持ってくる。 居間でチーズケーキを食べながら、団欒していると、お母さんが思い立ったように言う。 「そうだ!響ちゃん!アルバム見る??」 アルバム!? 先生の小さい時のかな?? 見たい!!! 「見たいです!」 「そうよねー?今持ってくるから、ゆっくりしてて??」 お母さんはそう言って、居間から出て行く。 階段を登る音がする。 「アルバムだ?そんなん見なくていーだろ。」 先生は呆れ顔をしている。 「見たいよ?小さい頃のかな?」 先生の小さい時の写真が見れる!と、ワクワクしていると、お母さんが二階から降りてくる。 手には5.6冊ものアルバムを抱えている。 え!? そんなに!?!? 「見てみてー?これはまだほんの少しなんだけど、幼稚園から高校生まであるから!とりあえず、これだけ持ってきたわ。コウちゃん持って帰っていいわよー!」 その山を見て、先生が呆れている。 「こんなん持って帰んねぇよ。どこに置けっていうんだよ。邪魔だ、邪魔。」 そう言って、タバコに火をつけて、アルバムなんて見ようともしない先生。 私は、ドキドキしながら、アルバムを開く。 そこには、赤ちゃんの頃からの先生の写真が沢山大切に保管されていて、、、。 「、、、かわいい。」 思わず声に出してしまう。 幼稚園の頃の運動会の写真や、小学校入学の時の写真。 小学校の遠足や、中学校の修学旅行、、、。 そこには昔の先生が沢山いる。 中学生時代になると、もう今の先生の面影があって、、、。 かっこいいなぁ、、、。 いいなぁ。 先生が同級生だったら、、、きっと好きになってたと思う。 楽しそうに友達と笑う写真を見て、先生の同級生たちが少し羨ましく思えたりして。 私もこの場所にいたかったなぁ、、、。 この頃の先生に出会っていたかったなぁ。 「そんなに面白いか?昔の写真なんか見て。」 興味無さげの先生が、写真を覗き込む。 「うん、楽しいよ?」 色んな時代の先生が見れて、面白くて、ページをどんどんめくっていく。 すると、高校生の先生の写真が出てきた。 「高校生だ。こんな感じだったんだね。」 そういえば、昔、一枚写真をもらった事があったっけ。 その写真は、手帳に挟んで、机の引き出しの奥に、隠してあるけれど、、、。 目の前のアルバムには、学ランを着て、友達達と楽しそうに笑う先生の姿が写真にある。 高校は男子校だったって言ってたっけ。 「あー、懐かしいな。こっちにあったのか。そー言えばこんなの撮ったっけな。」 先生が、アルバムを覗き込みながら、懐かしそうに話す。 一枚の写真に目が止まる。 あれ??浅葱先生らしき人もいるけれど、、、。 これ、浅葱先生!?!? 「あー、これ浅葱だ、浅葱。昔、丸坊主だったんだよな、あいつ。野球部でさ。」 「そーなんだ。」 今の浅葱先生からは想像もできない姿でびっくりしてしまう。 「持って帰ってゆっくり見たらいーじゃない。うちにあってもそんなに見返さないし。」 お母さんは、ニコニコ笑いながら、持って帰るよう勧めるけれど、先生は嫌な顔をしている。 「うちにあったって、見ねぇよ。こっちに置いといていいよな。」 「、、、うん。」 「あらそーなの?二階にまだ沢山あるのよー。結婚する時にでもまた取りに来ればいいわ。」 お母さんは笑って言う。 、、、結婚する時って! お母さんの言葉に顔が赤くなる私。 お母さんは、すっかりその気でいるようだ。 この写真達は、記憶に留めておこう。 いつかまた見返す時が来ればいいな。 そう思いながらアルバムを閉じた。 「もうそろそろ行くか。」 時計を見ると、もう2時を過ぎている。 今からまた5時間以上かけて、家まで帰らなきゃならない。 「うん。」 私がそう返事すると、帰り支度を始める先生。 「あら、もう帰るの?」 お母さんが名残惜しそうに声をかける。 「向こう着いたら夜だからな。早めに出るわ。」 先生はそう言ってコートを着込んだ。 「響ちゃん、また遊びにきてね!響ちゃんのご両親にもよろしく伝えてくださいね!」 優しい笑顔でお母さんにそう言われて、「はい!」と返事をした。 お父さんも座っていたソファから立ち、「また遊びに来てください。遠いところわざわざ悪かったね。」と声をかけてくれて、、、。 、、、優しいご両親で、本当に良かった。 「ありがとうございます!今日はご馳走様でした。とても美味しかったです!」 そう2人に挨拶をすると、優しい笑顔が返ってきた。 表口まで見送ってくれるお父さんと、お母さん。 「じゃ、また来るわ。元気でな。」 「耕作、おまえもたまには連絡しろよ。」 お父さんが、先生に声をかけている。 「あぁ。わかったよ。じゃあな。」 と、素っ気なく答える先生。 そんな先生の後について、「ありがとうございました。お邪魔しました。」と、頭を下げて薬局の出口から、外へ出た。 車に2人で乗り込む。 暖気していた車内は暖かくて、緊張の糸が解ける。一気にホッとする私。 「、、、ホッとした。優しくしてくれて、よかった。」 心の声が素直に出てしまう。 「だから言っただろ。大丈夫だって。」 そう言って先生は笑っている。 「、、、うん。本当によかった、、、。」 すごく緊張していたけれど、とても温かく迎えてくれて、本当に嬉しい。 ほっとした私を見て、先生がふっと笑う。 「昨日の俺の気持ちがわかっただろ。」 「、、、うん。わかった。」 素直に答えると、先生は笑っている。 「まぁ、うちの親はあんなんだから、何も心配する事ねぇよ。大歓迎されてたな。よかったじゃねえか。」 「、、、うん。」 「じゃあ、帰りますか。ここから、長旅だぞ。」 先生はそう言って、背筋を少し伸ばして、アクセルを踏んだ。
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