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ある日、暇を持て余していたぼくのところに、彼女が尋ねてきた。
え? 失礼な。ちゃんと仕事中だよ。暇だったのは、たまたまだ。
「いらっしゃいませ。探偵のご依頼で?」
久しぶりの来客に、心躍らせていたら、返事は意外なものだった。
「ここで働きたいのですが」
「おやめなさい」
即答した。完全な冷やかしか、店を間違えているよ。第一、求人募集なんて出してないし。
「履歴書を持ってきました」
なんでだ。面接するとも言ってないのに、強制?
「建物を間違えてない?」
このビルは2階建て。2階は上野クリニック、1つ上野……もとい、1つ上を目指す、男のクリニックだ。
まさか2階に用事? こんな美人さんが?
「間違ってません」
それを聞き、ぼくは自分の首筋に手を当てた。
"嘘"は、ついていないか。
「せっかく来てもらったけど、うちは人を募集してなくて」
「給料でしたら大丈夫です。探偵業ですよね? 私も仕事を請けてきますから、そこから出してもらえれば」
「ええ? そんなこと」
ダメだよ! と言えない男。情けないね悲しいね。
……まだあるけどこれ以上は勘弁してほしい。自分の恥をつらつら語れるほど、ぼくはMじゃない。回想終了。
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