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それ以来、調査報告と銘打っては、毎日のように会っていた。
ファミレス、喫茶店、たまにレストラン。健全だろう?
調査が残り1日になった時、彼女から提案があった。
「雅くん、明日は時間とれる?」
新妻くんから、雅くんと呼ばれるほど、仲は進展していた。
「可能だけど、調査はあと1日残っているよ?」
「明日はいいから、1日私に付き合ってほしいの」
「何か気になることでもあった?」
喫茶店で向かいあう彼女を、心配して伺う。
「ううん、ちょっとね。その分料金を安くしろなんて言わないし、何かあっても私の自己責任でいいわ。1日付き合ってもらうんだもの、何なら別途、調査料を払おうかしら?」
本気か、加奈子ちゃん。でもそんなものをもらう義務はない。
「何言ってるんだよ。それってデートのお誘いだろう? 喜んでだよ、welcomeだよ」
「なんで英語なのよ」
あはは。と笑う。こんなことで笑ってくれているのは嬉しい。愛想じゃなく心から笑ってくれている。
翌日。学生時代の道を歩こう。ぼくの下らない提案に、明日香ちゃんは面白そう! と乗ってくれた。
あの頃から、街並みは変わり、お互い大人になった。
変わらないものだってある。公園前の街路樹だ。
木々は白い花をつけ、緑の葉と白い花のコントラストが織りなす道を、2人で歩く。
「学生の頃、もしかして私のこと、気にしてくれてた?」
ドキリとした。
街路樹に面した柵の向こうに広がる、桜池公園。
今の時期、桜は散ってしまっているが、公園の中心に大きな桜の木が立っていて、そこで結ばれた男女の愛は永遠に成就する。よくある話。
だけど実績はあるようで、県外から人が来るほど有名な場所になっていた。
確かにぼくは学生時代、明日香ちゃんに告白しようとした。
ある"事件"を解決して、勇気をもらった気がしていた。
だけど──
「そうだっけ? 昔もことだから、覚えてないなあ」
トボけてみせた。
明日香ちゃんは、ぼくの手を握り、肩にそっと頭を乗せてきた。
「明後日、会える? 時間は16:00……。あの、桜池公園で」
16:00。それは過去にぼくが、彼女にお願いした時間だった。当時の下校時間に合わせて「16時、桜池公園で待ってる」。覚えててくれたんだ。
「……それは、あの日の続きと思っていいのかな?」
「むしろ、始まりかな」
握っていた手を離し、腕を絡ませてくれた。
ああ心臓が張り裂けそうだ。神様ありがとう。
最終日の事務所にて、調査報告書もいつも以上に気合が入る。
とはいえ書くことは、いつもと同じだけど。
「鼻の下伸びてます」
いつもは冷たい樹原くんの突っ込みも、寛大な心で受け止めちゃう。
「花の下は幸せだって?」
「耳を掃除されたらどうですか?」
「耳掃除? それはもっと、長く付き合ってからかなあ」
完全ニヤケ顔のぼくだが、仕方ない。だって幸せなんだから。
「男って本当、バカばっかり」
樹原くんが、ため息交じりにつぶやいた。
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