思春期

2/11
前へ
/11ページ
次へ
「今日は先にご飯食べる? それとも、終わってからにする?」 そういうときに限って、母は優しく、選択を求める。朱美はこれから塾だ。いつも、塾の前にご飯を済ませる。ただ、今日ばかりは、食い意地の張っている朱美も食欲がなかった。 「あー……。終わってからにする」 「あら。珍しい」 「珍しく、お腹すいてないんだよねー」 胃がキリリと痛んだ。母に隠し事をしたからなのか、最近の出来事を思い出したからなのか、朱美にもわからなかった。 いつも通りに……。じゃないと、お母さんが心配する。 朱美は、いつも通りにリビングのソファに座った。これは、いつも通りでよかった。ソファはテレビを向いていて、キッチンには背を向けていたからだ。母から朱美の顔は見えない。 少しホッとして、テレビを観ているフリをした。ボーッとテレビから聞こえる音を聞きながら、朱美は先程まで起こったことを思い起こした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加