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「今日は先にご飯食べる? それとも、終わってからにする?」
そういうときに限って、母は優しく、選択を求める。朱美はこれから塾だ。いつも、塾の前にご飯を済ませる。ただ、今日ばかりは、食い意地の張っている朱美も食欲がなかった。
「あー……。終わってからにする」
「あら。珍しい」
「珍しく、お腹すいてないんだよねー」
胃がキリリと痛んだ。母に隠し事をしたからなのか、最近の出来事を思い出したからなのか、朱美にもわからなかった。
いつも通りに……。じゃないと、お母さんが心配する。
朱美は、いつも通りにリビングのソファに座った。これは、いつも通りでよかった。ソファはテレビを向いていて、キッチンには背を向けていたからだ。母から朱美の顔は見えない。
少しホッとして、テレビを観ているフリをした。ボーッとテレビから聞こえる音を聞きながら、朱美は先程まで起こったことを思い起こした。
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