1 この言葉は誰に読まれるのか

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1 この言葉は誰に読まれるのか

「貴様が一生懸命書いたって、誰に読まれると思っているんだ」  ノートに小説のプロットを書いていると、今手にしている万年筆が話しかけてきた。 「小説を、誰に読まれると思っているんだ」  彼は数年前、プレゼントとして両親から渡されたものだ。しかし彼はとても口が悪くて、使っているとこうやって、意地悪なことをわざわざ口にしてくる。 「思い立てばどんなやつでも創作が出来るいい時代になったな。だが、作り手は多い割には評価される作品は少ない。むしろ、単発的に評価される作品は多くなったのかもしれないが、長く愛される作品は減ってきている。それでもまだ書きたいかい?」 「まあ、書くだろうね」  書いたら評価されたいし、読まれたい。それは普通の欲求だ。書いて投げてはい終わり、で満足な人は少ないんじゃないだろうか。むしろ幸せ者。  作品を商品とするなら、どうやって見られるか、宣伝するかは、店や棚の飾り付けみたいなもので、書くことや技術のみを重視するなら、いらないことなのかもしれない。  それでも、せっかくの作品を届けるために、そしてたくさんの人に見てもらうために、日々第三者にアドバイスを求めてみたり、賞に出してみたり。もちろん、出版社や大きな流通に乗ることが出来たなら、それはありがたいことだけど、そこに行き着く方法は人それぞれで、とにかく走り続けることしか出来ない。 「おかしなものだな。結果だけが全てなのに」 「おかしいね。ついてこないかもしれない結果より、書いていないと息が詰まりそうなんだ」 「可哀想な人間だな、貴様は」 「文句だけしか言えない君よりは幸せだよ。なにより、僕は君がいるからね。一番最初に読んで、文句をくれる君がいるから、幸せなんだ。読者には恵まれた」  万年筆は怒ったように、僕を可哀想だ可哀想だと、何度も何度も言う。  僕は多分、それでも書き続けると思う。生きていても書かないと死ぬ僕は、書き続ける。書いている僕は、幸せ者だ。
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