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「武はん、春どすえ。花名刺も衣替えどす。もろてくれはりますか」
お座敷遊びに盛り上がる宴席の隅で静かに酒を呑む武に酌をしていた芸妓は、しなやかに、たおやかに、花名刺を差し出した。
普通の名刺よりも一回り程小さな桜色の紙は花型に抜かれ、赤い字で名前が書かれていた。
〝姫扇〟
「君から貰った花名刺は、これで何枚目になるかな」
仏頂面をしている事が多い武の顔が微かに綻んだのを見、姫扇は嬉しそうに答える。
「五枚目どす。武はんと出会ってから季節が一巡りしたんどす」
「そうか……」
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