1970年3月 京都

4/8
前へ
/683ページ
次へ
 あまりにも分かりやすい、まるで恋をする少女のような表情に武は苦笑いした。 「芸妓が客にそんな表情(かお)を見せてはいけないだろう。芸妓姫扇は営業用の表情がちゃんと出来るのか心配になるな」  姫扇は拗ねたような表情を見せた。 「武はん、イケズどす。誰にでもこないな顔見せると思てはりますのん」  武はお猪口を持ったまま、ハハハと笑った。武が珍しく声を出して笑った事に嬉しくなり、姫扇も口元を隠しながら笑う。 「何処の桜を見に行こうかな」 「そうどすね……鴨川の桜なら、ゆっくり歩きながら見られますえ」 「ああ、それもいいな」  うちは、と姫扇は武の横顔を見ながら思う。
/683ページ

最初のコメントを投稿しよう!

274人が本棚に入れています
本棚に追加